シヴァリー 第三話

   ◆◆◆

  電撃の魔法使い

   ◆◆◆

 両国の衝突はさらに激しさを増していった。戦いはすでに消耗戦のような様相となっており、何度も徴兵が行われた。そしてアラン達は再び戦地へと赴いていた。

 アラン達は遊撃部隊として戦っていた。その活躍は目覚しく、中でも特にディーノとアンナ、二人の活躍が目立っていた。

「でえや!」

 ディーノが気勢とともに槍斧を一閃する。その度に敵兵の集団が吹き飛んでいた。

「魔法使いではない者にここまで押されるとは……なんという豪の者だ!」

 ディーノは獅子奮迅の活躍をしていた。その槍斧から放たれる一撃は並の防御魔法など容易に突破し、数人を同時になぎ払う威力があった。
 こんな重量武器をディーノは片手で扱っており、もう片方の手には上半身を覆い隠せるほどの丸型の大盾が握られていた。ディーノはこの大盾を使って敵の矢や魔法をいなしていた。

 活躍していたのはディーノだけではない。アンナもまたすさまじい戦果をあげていた。
 戦いに慣れてきたアンナは積極的に前に出るようになり、その炎で敵を次々と倒していった。

「こんな強力な魔法使いがいるなんて聞いていないぞ!」

 その炎のすさまじさに敵は恐怖し、士気は消沈していた。
 敵を倒した数で言えばアンナが最も多く、その数は二番手のディーノを大きく引き離していた。

(二人ともすごいな。俺の出番は無さそうだ)

 アランはそんな二人の活躍を少し離れたところから眺めていたが、自分のもとへ近づいてくる者の気配に反応し身構えた。
 アランの手にある武器は長剣。一般的な片手剣と両手剣の中間のようなものである。
 アランはその剣を片手で背負うように持ち、正面にはディーノのものと同じ大盾を構えていた。
 アランに向かってきている敵の数は三人。いずれも簡素な装備であり、奴隷兵であると思われた。

 無防備に突撃してきた一人目をなぎ払う。アランの長剣は敵の稚拙な防御を突破し、その命を刈り取った。
 二人目は少し頭が回った。アランが長剣を振り切った隙をついてきたのだ。
 胴を狙った刺突。狙いは悪くない。だが、アランにとってはあまりに緩慢な一撃であった。
 大盾でその一撃を阻む。と、同時にアランは大きく一歩踏み込み、大盾で相手を押し倒した。
 尻餅をついた相手に一閃。
 残りはあと一人。だが、そいつは突撃してきた二人とは異なり、慎重に間合いをつめてきていた。

(こいつは先の二人のような雑魚ではなさそうだな)

 最後の一人はアランの間合いぎりぎりのところから隙を伺っていた。

(先に振らせて後の先を取るつもりか? ならば――)

 アランは一歩踏み込んで相手の顔を目がけて剣を振った。それを見た相手はアランが踏み込んだのと同じ距離だけ下がり、アランの剣をぎりぎりで避けようとした。
 しかしアランは自身の剣が相手の鼻をかすめる瞬間に炎の魔法を剣先から放った。

「!?」

 顔を焼かれた敵兵は声にならない悲鳴をあげた。その無防備な姿に、アランは無慈悲な一撃を振り下ろした。

 前の戦いでヒントを得たアランは、剣と魔法を組み合わせて戦うようになった。この戦法は後に長い時を経て武術に昇華され「魔法剣」と呼ばれるようになる。
 しかし今のアランの魔法剣は「ただの燃える剣」である。殺傷力はほとんど向上していない。実のところ、今のアランの魔法剣は前の戦いでディーノを援護するために使ったそれよりも弱くなっていた。
 それが何故なのか、ここで詳細を語ることは差し控えさせて頂く。アランの武の道は魔法剣と共にあり、この物語の重要な位置を占めているからだ。

 この戦いはディーノとアンナ、二人の活躍によってアラン達の勝利で幕を閉じた。しかしアラン達は休む間も無く次の戦場へと出発した。

   ◆◆◆

 数日後、アラン達が去ったばかりの戦場跡地に、うろつく数人の人影があった。

「これはまた酷(ひど)くやられたものだな」

サイラスイメージ4

 そのうちの一人、魔法使いの風貌をした男はため息と共に独り言を漏らしていた。

(炎で焼かれた者と、大きな刃物でえぐられたような傷を持つ死体が多いな。焼死体のほうはアンナとかいう魔法使いの仕業か。
 魔法による焼死体なぞ珍しくないが、この大きな斬撃の跡がある死体は興味深い。話に聞いたディーノとかいう大男の仕業だろう)

「大将! サイラスの大将!」

 魔法使いが自分の名を呼ぶ声に振り返ると、大きな弓を持った男が手を振りながら駆け寄ってきた。

フレディイメージ2

「そっちはどうだった? フレディ」
「どこも同じですぜ。似たような死体ばかりです。やられてるのはこっちの兵士ばっかりで、相手のほうには目立った損害は見当たりません」
「やはりそうか。これは手強いな」
「どうするんで?」
「いつも通りだ。強い相手と正面からぶつかるなど愚策。策を講じるまでだ」
 戦場を一通り見て回ったサイラスは撤収の合図を出した。
「ここはもういい。出発するぞ」

 サイラスの目的地、それはアラン達が派遣されている陣地のことであった。

   ◆◆◆

 数週間後、目的地についたサイラスは、高地から地図を片手にアラン達の陣を観察していた。サイラス達は上からの要請を受け、援軍としてこの地にやってきていた。

「フレディ、相手の兵数はどれくらいだ?」
「全体で一万ほどかと。そのうちアランが率いているのは三千ほどですね」
「一万か」

 サイラスはフレディの報告を聞きながら地図を見渡した。
 両軍はなだらかな平地を挟んで陣を張っていた。サイラス側の陣地から見て左手は森、右手は広大な草原になっていた。

「フレディ、この草原地帯を見に行くぞ。ついて来い」

 サイラスはフレディとわずかな手勢を連れて草原へ向かった。草原に着いたサイラスは地面に手を当てた。草の高さは腰ほどまであり、最近雨が降っていないためか地面は乾燥していた。

「この草原、十分な広さがある。兵を伏せておくのも容易だろう。使えるな」

 サイラスはこの草原を見てなにか閃いたようだ。

「よじ、自陣に戻って作戦を練るぞ」

   ◆◆◆

 数日後――

「敵軍がこちらに進軍してきています!」

 敵襲の報せを受けたアラン達は慌てて出陣した。

 両軍は平地で対峙した。双方を見比べるとアラン達のほうが数で劣っていた。
 しかし数で劣る戦はこれが初めてではない。アラン達はこれまでと同じように、武力でねじ伏せようと考えていた。
 だが、戦闘が始まってすぐ、アランは違和感を覚えた。

(敵が脆すぎる。戦意が見えない)

 敵軍は簡単に崩れ後退していった。味方はこれを優勢と見て勢いのまま敵を押し込んでいった。
 敵の約半数は自陣に逃げ込み、門を固く閉じてしまった。取り残されたもう半数は草原の方へ逃げていった。

「敵は崩れたぞ! 追撃せよ!」

 総大将の声が飛び、突撃の合図が鳴り響く。
 全軍は草原へ逃げる敵を追って猛進した。
 敵の殿部隊と接触し、交戦を開始する。その中にアラン達の姿があった。
 そして、ディーノの眼前には魔法使いの風貌をした男の姿があった。
 格好自体は平凡だ。だが、その質感には高級感があった。裾などの至るところに気品を感じさせる刺繍も見て取れる。
 その雰囲気に確信を得たディーノは声を上げた。

「その身なり、名のある将と見た! 尋常に勝負!」

 言い終えるやいなや、ディーノは槍斧を構えてサイラスに突撃した。

(大きな斧を持った大男、こいつがディーノか)

 向かってくるディーノを見たサイラスは手に魔法力を込めた。

(勇敢な男だ。だがその猪突猛進ぶりが命とりになる)

 サイラスは魔法を放つと同時に大きく後ろに下がった。

「逃がすか!」

 下がるサイラスを追いかけ大きく踏み込んだ瞬間、ディーノの体に閃光と衝撃が走った。

「!?」

 閃光の正体はサイラスの手から放たれた稲妻だった。
 ディーノは一瞬倒れかけたが、寸でのところで踏みとどまった。

(倒れないか)

 サイラスは小さく舌打ちをした。

(あれは、まさか電撃魔法か!?)

 アランはディーノを襲った魔法を見てそう直感した。実際に電撃魔法を見るのは初めてだが、昔読んだ文献に書かれていた通りの現象だった。
 負傷したディーノをかばうようにアランがサイラスの前に立つ。

(この長剣を持った男は恐らくアランだな)

 ディーノに手を出させまいと、アランが剣を一閃する。
 対し、サイラスは懐に入れていた手を抜き放った。
 その下から姿を現したもの、それは白刃、間違いなく剣であった。
 アランとサイラス、両方の剣がぶつかり合う。
 いや、違う。サイラスは自身の刃の上でアランの剣を滑らせていた。
 首を狙った剣閃を逸らし、受け流す。

(この男、電撃魔法だけでなく剣も使うのか!)

 並の腕ではアランの長剣による一撃を受けることはできない。サイラスの剣の腕もまた並ならぬものであった。
 アランはすぐに刃を返し二撃目を放った。
 サイラスは先と同じようにそれを受け流そうとした。が、身を焦がす熱を感じとったサイラスはすぐさま後方に飛んだ。
 見るとアランの剣からは炎が噴出していた。まるで燃える剣だ。

「おもしろいことをするな、アランとやら!」
「俺のことをなぜ知っている?!」
「強者の名はすぐ世に広まるものだ!」

 サイラスはそう言いながらアランに向けて魔力を放った。アランは咄嗟(とっさ)に盾を構えて防御の体勢をとったが、電撃は盾を無視してアランの体に直撃した。

「ぐっ?!」

 サイラスはよろめいたアランを剣で追撃しようとしたが、突如横から炎が飛んできたためやむなく後退した。

「お兄様、この男の相手は私に任せてください!」
(今の炎を放ったのはこの女か! この女がアンナとかいう魔法使いだな)

 今度はアンナが兄を助けるために前に出てきていた。アンナだけでなく回復したディーノもこっちに向かってきていた。

(この三人を同時に相手にするのは無理だな。もう十分に時間も稼いだ。ここは退こう)

 そう判断したサイラスはすぐさま身を翻し、草原の中へ逃げ込んでいった。

「待ちなさい!」「待ちやがれ!」

 それを見たアンナとディーノは草原の中へ飛び込んでいった。二人だけでなく、他の味方部隊も突撃していった。

「待て! アンナ、ディーノ! あまり突出するな!」

 アランは警告したがすでに遅く、二人の姿は草原の奥へ消えていた。
 アランはすぐに二人を追い駆けようとしたが、その足はアランの意志に反し、微動だにしなかった。電撃を受けたせいか、アランの膝は笑ってしまっていた。

「アラン殿! ご無事か?!」

 その時、動けないでいたアランに指揮官らしき男が声をかけてきた。

「ケビン殿! 私は大丈夫です!」

 声をかけてきたのは別部隊の長を務めるケビンだった。

「アラン殿! この敵の動き、私には妙に思える! あなたはどう思う!」
「私も同感です! 十中八九、罠が仕掛けられていると思います!」
「あなたもそう思うか! 我が総大将殿は敵を追って草原に入ってしまった! 私は救援に向かおうと思う!」
「いえ、それは我々が! 私の妹と友も草原に入ってしまったので!」
「ならば任せた! 私は残った兵士を集めて陣の防衛に就いておく!」

 話しているうちに足が回復したアランは、すぐさま自分の部隊に号令を発した。

「我が隊はこれより突出した総大将達の救援に向かう! 行くぞ!」

   ◆◆◆

 アンナとディーノはサイラスの背中を追って草原を駆けていた。
 アンナは走りながらサイラスに向けて魔法を放った。草原の中であるゆえに、放った魔法は炎では無く、魔力を収束させた光弾であったが、アンナの光弾は草花をなぎ倒し地面をえぐらんとする威力があった。
 しかし何度目かになるアンナの攻撃はまたも空振りに終わった。

(器用に避ける。まるで背中に目がついているかのよう)

 サイラスはアンナのほうをほとんど見向きもせずに、放たれる魔法をひらりひらりとかわしていた。サイラスの足は速く、アンナ達が追いつく気配はまるで無かった。
 ふと、アンナの目に妙なものが映った。アンナが放った魔力によってえぐられた地面に奇妙なものが落ちていた。
 近づいて見てみると、それは縛られた藁の束だった。それからなにか鼻をつく匂いがする。

(この匂い、油……?)

 その瞬間、アンナの脳裏に最悪な光景が広がった。同時にアンナはようやく自分達が追い詰められていることを理解した。

「ディーノ様、今すぐにこの草原から離れましょう! ここは危険です!」

 アンナの視線の先にあるものを見て、ディーノもまた同様に理解した。

(気づかれたか。もうすこし引き付けたかったが、まあいい)

 感付かれたと判断したサイラスは手を振って合図を送った。
 すると、ぼうっ、と、火を点ける音が草原のあちこちから木霊した。
 草原の中に次々と火柱が立ち上る。油と枯れ草を糧に、炎は恐ろしい勢いで成長した。

「!」

 その熱気に二人が思わず後ずさる。
 辺りを見回す。草原は既に草の青よりも、炎の赤と煙の黒のほうがはるかに多い有様であった。
 そこかしこから仲間の悲鳴が響き始める。逃げなくては――そう思ったアンナとディーノが振り返ると、そこには既に炎の壁が出来上がっていた。
 アンナはその赤い壁を破ろうと魔力をぶつけたが、炎が激しくゆらめいただけで、効果は見られなかった。
そうこうしているうちに炎との距離が詰まる。身を焦がすような熱が伝わり、目を開けているのも難しくなってきた。

 アンナの中にはっきりとした死のイメージが浮かび上がる。

 私はここで、今まで自分が焼いてきた敵兵達のように、熱さにもだえ苦しんで死ぬのか――

 嫌だ。

 目じりに涙を溜まながら拒絶の言葉を心の中で叫んだ瞬間、

「アンナ、ディーノ! どこにいる!」

 耳に届いた兄の声に、アンナは可能な限りの大声で応えた。

「お兄様ぁ!」

 目の前の炎と煙が揺らめく。アンナの声が空気を震わせたかのように。
 すると、その揺らぎの中から兄が飛び出してきた。

「アンナ、ディーノ! 良かった、無事か!」

 兄の姿を見るや、飛び込んできたアンナをアランは強く抱きしめた。

「総大将殿の姿を見なかったか?!」

 アランの質問に対し、アンナとディーノは首を横に振った。

「そうか……仲間が退路を確保してくれている! 急いでこの草原から脱出するぞ!」

 総大将の捜索をあきらめたアランは、二人を連れて草原から脱出した。

   ◆◆◆

 その頃、陣の防衛についていたケビン達もまた敵と交戦していた。
 草原に火の手があがったのとほぼ同時に、敵軍がこちらの陣を襲撃してきたのだ。
 ケビン達は懸命に守っていたが、多勢に無勢。すぐに門は破られ、敵が陣中になだれ込んできた。
 侵入した敵軍は陣に火をつけてまわった。ケビン達は懸命に消化作業をこなしながら、侵入した敵の迎撃を行っていた。
 陣中はあっという間に乱戦となり、敵味方の区別も難しい状態になった。

「きっともうすぐ味方が戻ってきてくれる! 皆のもの、今しばらく耐えるのだ!」

 そんな状況でもケビンは味方を鼓舞しながら戦っていた。しかし敵の勢いは止まらず、遂にケビンは敵兵に包囲されてしまった。
 ここまでかとケビンが覚悟を決めたとき、突如敵の後方が騒がしくなった。草原を脱出したアラン達がこの窮地に駆けつけたのだった。

「ケビン殿、ご無事ですか!」
「アラン殿か! すまない、助かった!」

 アラン達はあっという間に雑兵達を蹴散らし、ケビンを救出した。

   ◆◆◆

 アラン達の活躍により敵は追い払ったものの、陣の被害はかなり大きいものだった。
 特に痛いのは兵糧がやられていることで、

「これでは次の輸送隊がくるまで持ちこたえられませぬ」

 アランの部下クラウスはそう述べた。

 兵糧がやられている以上、撤退するしかないということは皆理解していたが、あえて相談した結果、

「ここであと一日だけ味方の合流を待ちましょう」

 と決まった。

 しかしいくら待てどもアラン達の元に味方が合流することはなかった。草原に向かった味方は既に全滅していたからだ。ほとんどが火にやられていたが、辛うじて草原を脱出した者も、事前に配置されていた伏兵の餌食になっていた。

   ◆◆◆

 一方、アラン達に大きな被害を与えたサイラス達もまた、自陣にて次の一手を思案していた。
 ある者は今すぐ追撃すべきだと述べた。しかしサイラスは敵の残戦力が明確でない以上、うかつな行動はすべきではないと反論した。
 サイラス達の議論は平行線のまま結論を出せないでいた。しかしそこへサイラスの部下フレディが偵察兵を連れて戻ってきた。

「大将、ただいま戻りました」
「報告を聞かせてくれ」

 サイラスは待っていたとばかりにフレディに報告を促した。

「今回の作戦はおおむね成功です。敵の兵糧はほとんど破壊できていました」
「おおむね成功とは?」
「敵主力のアンナとディーノはまだ生きていました」

 この報告にサイラスは小さく舌打ちした。

「今回の作戦はアンナとディーノを排除するために仕組んだものだ。あの二人が生きているのでは作戦は失敗したのも同然だ。相手の兵数は残り僅かだが、あの二人が生きているのでは油断はできない。特にアンナは一騎当千の力がある」

 サイラスのこの発言に対し、夜襲を仕掛けてみてはどうかという案が出たが、これに賛同する者は少なかった。
 強い魔法使いを倒す手段は限られている。弱者が強者を倒す昔話は数多くあるが、そのどれもが似たような内容だ。
 夜襲などによる奇襲もその手段のひとつである。乱戦に持ち込めば、同士討ちを恐れた魔法使いはその力を発揮できなくなる。
 しかしこれは結局のところ博打である。今の戦力では奇襲を仕掛けてもアンナを確実に倒せる保障は無い。乱戦に持ち込めなければ最悪こちらが全滅させられる恐れがある。

「既に十分な戦果を上げた。ここで博打に出る必要はないだろう」

 思案した末、サイラスは無理をせず次の機会を待つべきだと提案した。これには多くの者が賛同した。
 相手はあの陣を放棄せざるを得ないはずだ。放っておいてもあの地は手に入る。
 
 話し合いを終えたサイラス達は最低限の見張りだけを置いて休息を取ることにした。
 窮屈(きゅうくつ)な簡易寝具の中でサイラスは呆然と先のことを考えていた。

(もっと力がいる。自分がこの世界で人の上に立つには、もっともっと力が……)

 まだはっきりと形にならない野望を抱きながら、サイラスの意識はまどろみに沈んだ。

   ◆◆◆

 日が沈み、アランとディーノは夜の陣中で共に見張りをしていた。どちらがともなく話しかけ雑談をしているうちに、先の戦いで出会った電撃魔法の使い手についての話になった。

「……これはただの直感なんだけどよ、あいつ自体はそんなにケンカは強くないと思うぜ」
「どうしてそう思うんだ?」
「お前、あいつの電撃くらっただろ?」
「ああ」
「俺も食らった。結構痛かった。お前はどうだった?」
「痛かったな。痺れと、火傷ができた」
「要はそういうことだろ」
「どういうことだよ」
「あいつの魔法は弱いんだよ。あいつは俺とお前に電撃を直撃させたにも拘らず、どっちも殺せてない」

 頷くアランを見て、ディーノは一呼吸置いたあと話を続けた。

「それだけじゃねえ。お前、あの電撃の軌跡見えたか?」
「いやまったく見えなかった」
「あの電撃、見てから避けられると思うか?」
「人間には無理だろうな」
「じゃあなんであいつはあの電撃を連射しねえんだ? 避けられる速さじゃねえ。にも関わらずそうしないのは、それができないからだろ」
「なるほど」

 アランはディーノの弁に至極納得した。と同時に、ディーノの戦闘に関しての感性の良さは自分の及ぶところでは無いなと感じた。
 
 ディーノの予想は概(おおむ)ね当たっていた。サイラスの電撃魔法は派手だが強力ではなく、そのうえ制約も多い。はっきり言ってしまえば使い勝手が悪く弱いものだった。
 威力が無いのは単純にサイラスの魔力が弱いからである。サイラスの魔力は一般人にすら劣るレベルであった。しかし、にも関わらず彼は魔法社会で軍を指揮する将軍の地位に就き、重宝されていた。
 サイラスの使う電撃魔法は非常に貴重な能力である。使用者は歴史を振り返ってもわずかしかいない。その正体は謎に包まれていた。
 サイラスはその希少性の高さを上手く利用していた。彼の電撃は弱くとも見た目は派手である。少し演出して披露するだけで、周りの人間は彼を畏れ敬った。
 しかし彼の真に恐れるべき能力は豊富な知識と行動力である。サイラスは戦士としても魔法使いとしても強くはない。彼は武人ではなく知恵者だった。

 アランとサイラス、二人はどことなく似ていた。しかし二人は全く違う未来を歩むのである。

   第四話 父を倒した者達 に続く
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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読ませて頂きました

いつも私のブログに遊びに来てくださってありがとうございます。

まだ三話までですが、できるだけ毎日一話ずつ読み進めています。
とてもおもしろいです。

Re: 読ませて頂きました

> いつも私のブログに遊びに来てくださってありがとうございます。
>
> まだ三話までですが、できるだけ毎日一話ずつ読み進めています。
> とてもおもしろいです。

ありがとうございます。これからもよろしくおねがいします。
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稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
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