ネゴシエイター桃太郎5

桃から生まれた桃太郎。
彼が犬、サル、キジの三匹をお供に、鬼退治をした昔話はあまりに有名である。

民を苦しめていた鬼を退治したことは立派なことだ。だが、なによりもすごいのは、たったきび団子一個で三匹にそんな危険な仕事をさせたことである。

桃太郎、彼の真の武器は勇気では無かった。
彼の武器は話術とコネ。どんな難題も口先で解決する。そんな彼のことを皆は交渉人(ネゴシエイター)と呼んでいた。

   ◆◆◆

桃太郎「本当は逃げたんだろ? 正直に言っていいんだぞ?」

犬(あわわわわわわわわ)

完璧な言い訳を一瞬で看破されてしまった犬!
絶体絶命のピンチだ!

しかし犬の頭ではこの窮地を切り抜ける術は思いつかなかった。

犬「あばばばばばばばばば」

桃「……そんなに怯えなくていいぞ。何もしやしないから」

犬「え?」

桃「お前を探していたのは渡すものがあるからだ」

そう言って桃太郎はふところから封筒を取り出した。

桃「受け取れ」

犬「なんですか? これ?」

桃「退職金だ」

犬「へ?」

桃「この仕事を辞めるつもりだったんだろう? 違うのか?」

犬「え? ……ああ、はい、その通り、です」

桃「じゃあ受け取れ。遠慮する必要は無い」

犬はおずおずと厚みのあるその封筒を受け取った。

犬「……あのう」

しかし犬には聞きたいことがあった。
そしてその内容を桃は見透かしていた。

桃「自分を改造したりしないのか? と聞きたいんだろう?」

犬「は、はい」

桃「一つ真実を教えよう。今一緒に旅をしているゴリラとフェニックスはサルとキジじゃない。別人だ」

犬「どういうことです?」

桃「……あのサルとキジは鬼から送りこまれたスパイさ」

犬「スパイ?」

桃「そうだ。単純に言えば敵だ。よく考えてみろ。きびだんご一個でこんな危険な仕事を引き受けるやつがどこにいる?」

そう言って桃は「はっ」となった。そんなやつが目の前にいるからだ。

桃「……逆に聞きたいんだが、君はなぜこの仕事を引き受けたんだ? 君の素性は調べさせてもらった。ただの一般人であることはわかっている」

これに桃は「義」や「勇」などの言葉を含んだ返事を期待したが、残念ながらその希望に犬は応えなかった。

犬「……なんかかっこいいな、って思って」

これを聞いた桃は「こいつ本当にアホなんだな」と思ったがそれは口に出さないでおくことにした。

桃「そ、そうか」

場に奇妙な静寂が漂い始める。

その微妙な空気を犬が破った。

犬「……桃さんはなんで僕達を雇ったんですか? スパイである可能性が高いことはわかっていたのに」

桃「……私はただのおとりなのさ。正確には『だった』だが」

犬「おとり?」

桃「そうだ。鬼の注意を引くためのただのおとりだ。裏では軍隊が攻撃の準備を進めている」

なんか壮大な話になってきたな、と犬は思った。

桃「そして鬼は既にそのことに気付いている。だから私は隠す必要無しと判断してサルとキジを軍に引渡した」

桃「これからの私の仕事はただの荒事だ。先行している部隊と合流して鬼に挑む、それだけだ」

桃「……これで話は終わりだ。じゃあな。気をつけて帰れよ」

それだけ言って、桃は手を振った後、犬の前から去った。

犬「……」

残された犬はこれからどうしようかな、と考えた。

犬「……退職金もらっちゃったし、ちょっとこの辺を観光でもしようかな!」

これは嘘であった。
本当はこんな何もないところを観光したいなどと思っていない。
ただ、桃太郎のことが気になるだけなのだ。

次回に続く
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テーマ : オリジナル小説
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