話せない8

犬さん

俺は犬だ。

この世には喋れる動物が数多くいるが、俺は喋れない。
「ワン」か「バウ」くらいしか言えない。

だが、考えることは出来る。人間のように。
俺の飼い主がそれに気づいているかどうかはわからないが。

犬「……」

秋の夜、俺はご主人様の背中を眺めていた。

娘「……」 カタカタ

ご主人様は相変わらずパソコンを触っている。
最近、『ブログ』というものを始めたようだ。

娘「……よし! コメント返し終わり! じゃあ早速、今日の記事のネタを……」

そう言って、ご主人様は俺の方にカメラを向けた。

娘「はいはい、笑って笑って」 パシャパシャ

犬「……」

どうやら、俺はその『ブログ』とやらのネタにされているようであった。

   ◆◆◆

深夜――

犬「……」

俺は悩んだ。眠れないほどに。

ご主人様がかまってくれるようになった。それは嬉しい。

しかし、こんな形では望んでいなかった。

犬(……馬鹿な、何を悩むことがあるんだ)

人に媚びる、それも犬の務め(つとめ)の一つだろう。

ご主人様は『ブログ』が賑わうことを望んでいる。

ならば、俺がやるべきことは、目指すところは一つしかない。

犬(……決めた! 俺はアイドルを目指す!)

トップアイドルになって、スターになって、ご主人様のブログを天下に知らしめるのだ!

   ◆◆◆

次の日から、俺は早速レッスンを開始した。

最初に始めたのは「キメ顔」の練習であった。

鏡を見ながら、ベストな角度と表情を探す。

犬(……こうか? いや、違うな……、もっと母性本能をくすぐる表情のほうが……いや、違うな……)

そんな感じで、鏡とにらめっこをする日々がしばらく続いた。

   ◆◆◆

一週間後、俺は遂に「キメ顔」を習得した。
自分で言うのもアレだが、かなりカッコいいと思う。

娘「……」 カタカタ

俺はご主人様がカメラを手にする瞬間を待った。

娘「……よし! コメント返し終わり! じゃあ早速、今日の記事のネタを……」

そう言って、ご主人様は俺の方にカメラを向けた。

犬(今だ!)

目線はカメラに向けたまま、右下に少し(角度にして32度)うつむく! 

犬(キリッ)

パシャ

娘「……」

犬「……」 キリッ

……ふっ。あまりのカッコよさに、ご主人様も言葉が出ないと見える。

娘「……う~ん」

ん?

娘「正面から撮りたいなあ」

え?

娘「こっち向いて、こっち」

言いながら、ご主人様は俺の顔を掴んだ。

犬(ちょ?!)

ご主人様の手に力がこもる。

俺は抵抗した。全力で。

娘「ちょっと?! なんで抵抗してるの?! こっち向いてよ!」

イヤだ! この顔を撮って欲しいの!

娘「こっちを向きなさい!」

イ・ヤ・だ!!!

娘「ま・え・を・む・け!!!」

グキッ

犬(はうぁ!)

パシャ

娘「……う~ん、なんか変な顔になっていた気がするけど、もういいや。これで記事を書こう」

そう言って、ご主人様は撮ったばかりの画像をブログにアップした。

俺は後ろから覗き込んでその画像を確認した。

犬(……なんじゃこりゃあ!)

ムンクの叫びみたいな顔になってる!

娘「……ちょっと変顔になっちゃったけど、これはこれで面白いからいいか」

犬(ぜんぜん良くないよ! 首も痛いよ!)

俺はご主人様の背中を引っかいて抗議したが、俺の願いが聞き入れられることは無かった。

――

ちなみに、その変顔は好評を博し、犬は一躍有名になりました。
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テーマ : オリジナル小説
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