シヴァリー 第三十四話

   ◆◆◆

  武技乱舞

   ◆◆◆

「うおおおぉっ!」

 戦場に木霊するバージルの雄叫び。
 直後、陶器を割ったような甲高い音がそれに混じる。
 槍斧が防御魔法を貫いた音だ。
 そして輝く三日月が地の上を走った後、今度は兵士達の悲鳴が木霊する。
 一呼吸遅れて降り注ぐ赤い雨。
 バージルの体も既に同じ色に染まっている。
 ヨハンに怒声を返してからこの流れを三度繰り返したからだ。
 そしてようやくヨハンが立っていた櫓の元にたどり着いた。
 バージルは鋭く踏み込ながら左手を突き出し、

「破ぁっ!」

 櫓の根元に光の壁を叩き付けた。
 破砕音と共に櫓がへし折れる。

「うわあぁっ!」

 逃げ遅れた数人の兵士が倒壊した櫓の下敷きになった。
 瓦礫の下から血が滲み出す。
 バージルはその無残な残骸を踏み越えながら声を上げた。

「どこへ行った!? ヨハン!」

 周囲を見回すバージルの背中に声が飛ぶ。

「バージル! ヨハンは後方へ逃げました! そのまま直進しなさい!」

 それは凛としたクレアの声。
 同時に、光弾を叩き払ったかのような音がバージルのほぼ真後ろから響いた。
 振り返ると、そこには光る手刀を構えるクレアの姿。

「背中は私が守ります! 前だけに集中しなさい!」
 
 
 この言葉にバージルは行動で答えた。
 正面にいる敵兵達に突撃し、三日月を放つ。
 降り注ぐ赤い雨。
 バージルの目に鈍い痛みが走り、視界が同じ色に染まり始める。
 しかしバージルの意識は違う色の方に向いていた。
 それは左右から迫る白。
 光弾による挟撃だ。
 これに対しバージルは左手から魔力を放出しつつ、槍斧を右側へ袈裟の軌道で振り下ろした。
 直後、光の壁が左手側から迫っていた数発の光弾を弾き返し、槍斧を握っていた右手に光弾を切り払った衝撃が伝わった。
 そしてバージルは斜め後ろに振るった槍斧の勢いに逆らわず、後ろを向くように腰を捻った。
 槍斧を両手持ちに変えつつ、正面にいる敵兵から背中が覗き見えるほどに腰をねじる。
 腰から伝わる力の蓄積。
 バージルはそれと同じくらいの力を両腕に込め、

「でぇやぁっ!」

 気勢と共に両の力を解放した。
 輝く槍斧を水平に一閃。
 放たれた三日月が正面にいる兵士達の体を横一文字に切り裂く。
 場に響き渡る兵士の悲鳴。
 直後、戦場に新しい音が加わった。
 それは太鼓の音。
 バージルはその拍子の意味を知っていた。
 それは、

(……密集陣形の合図!)

 であった。
 戦場にさらに音が加わる。
 それは軍靴の音。
 地響きを感じるほどの数。
 戦場にいる全ての兵士がヨハンを守るために、そしてバージルとクレアを圧殺するために集まってきているのだ。
 直後、バージルの視界に兵士が列を成した。
 魔法使いでは無い。それは大盾兵。
 バージルの足を止めるために壁を作ったのだ。
 大盾兵の列はバージルとクレアを取り囲むように伸び始めている。
 それを見たバージルは勢い良く地を蹴った。
 これまでと同じ単純な突撃だ。
 バージルは手を変える必要性を感じていなかった。そも、バージルは目の前にいる大盾兵の列が壁であるとは認識していなかった。今のバージルにとってこれは障害では無いのだ。
 バージルは立ち並ぶその鋼の列に向かって鋭く踏み込み、

「破っ!」

 櫓にした時と同じように、光の壁を叩き付けた。
 直撃を受けた三人の大盾兵の体が派手に吹き飛び、後ろに並んでいた兵士の列を薙ぎ倒す。
 その様をヨハンは後退しながら見つめていた。
 その顔は明らかに驚いている。

(なんという勢いだ。これは止まらぬ)

 ヨハンは後方に築いておいた陣の方へ足を動かしながら、考えを巡らせていた。

(しかしいつまでもは続くまい。どこかで体力が底を突くはずだ)

 ヨハンはまだ自分の勝利を疑っていなかった。
 しかしその顔には焦りと恐怖の色が滲み始めている。
 ヨハンは兵士達を盾にしながらバージルとクレアを疲弊させようと考えていた。
 普段のヨハンならばこんな手は取らない。確かにバージルとクレアは消耗するだろうが、受ける損害が大きすぎるからだ。
 普段のヨハンであれば自身の閃光魔法を活かそうとするだろう。
 しかしその選択肢は今のヨハンの頭には浮かんでこない。
 心の奥底で怯えているからだ。クレアの最終奥義と対峙した時のカイルと同じである。分からないから怖いのだ。
 だからヨハンは気がついていない。完全な消耗戦になってしまっていることに。
 そしてヨハンは後退しながら声を上げた。

「怖気づくな! 数の力で圧殺しろ!」

 これを聞いた兵士達の反応は鈍かった。
 私のために突っ込んで死ねと言っているようにしか聞こえなかったからだ。
 事実上そうであった。それでも兵士達はヨハンを守るように隊列を組みなおした。
 しかし誰もその足を前に出そうとはしなかった。
 士気が落ちているのは明白。
 その様子にバージルは逆に心を高ぶらせながら、

「うぉりゃあ!」

 槍斧を振るった。
 放たれた三日月が兵士達を切り払い、隊列に穴を開ける。
 この事態に兵士達は動こうとしなかった。開いた隊列の穴を埋める素振りすら見せなかった。
 魔法使い達は手をかざして光弾を撃っているだけのただの砲台だ。大盾兵達は完全にただの棒立ち。
 兵士達の動きが鈍くなっている、その事実にヨハンは声を上げた。

「カイル!」

 最大の信頼を置く者からの返事は無かった。
 もう一度声を上げる。

「どこへ行った?! カイル!」

 やはり返事は無い。
 カイルの姿はヨハンが目指している陣中の櫓の上にあった。

「……」

 カイルはその場所から状況を静観していた。
 ヨハンの声はカイルの耳に入っていた。
 しかしカイルは主人に声を返すつもりは無かった。文字通りの高みの見物であった。
 カイルは慌て逃げる主人の姿を見ながら思考を巡らせた。

(……恐らく、我が主は自分にこう命令するつもりなのであろう。『陣にある障害物を利用して二人に接近し、陰から攻撃せよ』と)

 軌道を自由に変えられる自分の技は奇襲や暗殺向きである。密林や市街のような障害物が多い場所でこそ、我が鎖は真価を発揮するのだ。
 ヨハンがそれを期待しているならば、適切な判断である。が、カイルはもうこの戦いには手を出さないと腹を決めていた。
 そして直後、カイルの意識は別の方向へ向いた。
 視界の隅に何かが映ったからだ。
 そちらへ視線を向け、その正体を確認する。
 瞬間、カイルの中に湧いたのは期待感。
 もしかしたらこうなるかもしれないという、こうなってくれるかもしれないという希望。
 目に映っているのはたった一人の男だ。しかし彼ならばこの状況を大きく傾けられる、そんな根拠の無い期待感がある。
 速いからそう思えるのだろう。凄まじい勢いで距離を詰めて来ている。

(しかしたった一人とは。部隊はどうした?)

 彼の後ろに部下の姿は無い。
 その疑問の答えはすぐに浮かんだ。
 引き連れていては間に合わないと判断した彼は部隊を置き去りにしてきたのだろう。
 よほど急いで駆けて来たのか、遠めに見渡しても彼の部隊の姿は見えない。
 だが彼の頭の中に数の不利という概念は無いようであった。
 真っ直ぐに最短距離を駆けて来ている。
 外周にいる兵士達もそれに気付いたらしく迎撃体勢を取った。
 そこまで視認したところでカイルは視線を外した。
 この場から離れなければならなかった。ここはもうじき戦場となる。どうなるか見ていたいが、これ以上この陣中に留まることは出来ない。
 櫓から降りたカイルは再び視線を戻し、

(御武運を)

 男の活躍を祈った。

   ◆◆◆

 カイルが陣を出た頃にようやく、その男の接近がヨハンの耳に入った。

「ヨハン様、敵の増援です!」

 兵士の声に、ヨハンは足を止めずに尋ね返した。

「どこからだ! 数は!」
「一人です! 既に交戦状態に入っています!」

 またしても一人。
 しかし今度は怒声を返すことは無かった。
 代わりにヨハンは視線を動かした。
 その交戦音が耳に入ったからだ。
 そして、ヨハンの視線上にいるバージルもそれに気が付いたようであった。
 刹那遅れてバージルも同じ方向へ視線を向けた。
 何かが凄まじい勢いで近づいてきている。
 その何かはすぐに正体を現した。
 バージルの眼前にいた兵士をなぎ倒し、姿を見せたのはリック。
 リックはバージルの方を見ていなかった。
 その視線の先にあるのは傷ついた母の姿。
 これにリックは声を上げた。

「……貴様らぁっ! ここから生きて帰れると思うなぁっ!!」

 殲滅宣言と同時にリックの足が前に出る。
 しかしその駆け出しには鋭さが無かった。アンナ率いる騎馬隊の相手をした時と比べると見る影も無いほどに。
 リックの足は既にかなり消耗していた。馬では間に合わないと踏んだリックは自分の足で山を二つ越えて来たのだ。
 それを察したクレアは声を上げた。

「リック!」

 制止の意味を込めて息子の名を叫ぶ。
 しかしリックに止まる気配は無い。
 それを見た兵士達が光弾を放つ。
 宣言で注目を集めたからかその数は多い。
 対するリックが回避行動を取る。

「!」

 その動きに、クレアは目を見開いた。
 まるで水が流れるかのような動き。
 奥義は使っていないらしく、速くは無い。その足運びと体捌きは緩やかで静か。
 しかし無駄が無い。見たことも想像したことも無い動きだ。
 するすると、いとも簡単げに兵士との間合いを詰める。
 そして、正面にいる兵士の体がリックの間合いに入った瞬間、

「破っ!」

 気勢と共にリックが一撃。
 眼前にいた兵士の体が真上に跳ね上がる。
 リックが放ったのは低姿勢からの突き上げ右掌底打ち。
 速い。クレア以外にははっきりと見えないほどに。明らかに奥義を使った動きだ。
 そして直後、リックの影が再び鋭く動いた。
 二つの打撃音が響き渡り、左右にいた兵士の体が派手に吹き飛ぶ。
 やったことは単純。左に正拳突きを放った後、振り向きながら回し蹴りを放っただけ。
 だが速い。素人目にはリックの体がぶれたようにしか見えず、二つの打撃音は重なりかけている。これも奥義を使った動きだ。
 次の目標目掛けてリックが地を蹴る。
 ほぼ同時にバージルも再び攻撃を開始。
 しかし二人のつま先は全く違う方向へ向いていた。
 バージルの狙いは変わっていない。ヨハンを目指している。
 対し、リックはクレアを守るように動いている。クレアの近くにいる兵士を狙っている。
 これを見たクレアはバージルを追う様に地を蹴った。
 こうすれば三人で共闘する形になるからだ。
 バージルが突撃し、クレアがその背を守り、リックが母を庇う。
 三位一体である。が、クレアの意識は少し違う方向に向いていた。
 クレアは息子の戦い方に意識を傾けていた。
 リックの周囲には絶え間なく光弾が飛び交っている。
 それらをリックは全て回避している。しかし驚くべきはそこでは無い。回避するだけなら自分にも出来る。
 見るべきは動き。
 息子の一挙一動を注視する。
 しかし分からない。どうすればあんな動きが出来るのか。
 起点が全く無い。風が吹いて自然に傾いたかのような、そんな回避動作。
 その様子から力を抜いていることが分かる。
 だが出鱈目に脱力しているわけでは無い。芯はある。体が大きく傾いても不安定さを感じない。力を入れるべきところにだけ入れているというような感じだ。理想的な脱力に見える。
 以前の息子は、戦いに出る前の息子はこんな動きを見せたことは無かった。
 この短期間でこうも変われるものなのだろうか? 疑いたくなるが、事実は目の前にある。一体、息子は戦場でどんな経験をしてきたのだろうか。
 しかし、攻撃に転じる時は違う。自分がよく見知った動きに戻る。攻と防で動きが全く別物だ。

 それもそのはず、リックは切り替えながら戦っていた。リックは夢想の境地の使用を防御のみに限定していた。
 その理由は、夢想の境地だけで母を守ることが出来るのかどうか分からなかったからだ。
 夢想の境地は無意識の領域で敵の攻撃を察知し反撃するものだ。しかし、その発動が味方への攻撃に対しても起きるのかどうかが、今のリックには分からなかった。

 その考えがただの杞憂であることを、リックはこの戦いで知ることになる。

 そして、クレアは息子に守られながら自身の体に魔力が戻るのを感じ取っていた。

(これならば――)

 そろそろ奥義が使えるだろう、クレアはそう思った。
 が、その「そろそろ」と言う言葉は誤りであるとすぐに気付いた。
 魔力が急速回復し始めたのを感じ取ったのだ。
 内臓の働きが完全に戻ったのだろう。
 そして、その「だろう」という曖昧な感覚は瞬く間に消え去り、確かなものだけが残った。

「……」

 近くにいる敵を見据えながら、体内に流れる魔力を練る。
 このまま二人に守られながら前進するほうが堅実である。それは分かっている。
 しかしこのクレア、そのような精神は生来持ち合わせていない。
 それに、

(この二人の戦いぶりを目の前にして昂ぶらぬ武人などいない!)

 などと、クレアは猛りに心を若返らせながら、鋭く地を蹴った。
 一本足とは思えぬ踏み込み速度。
 迫るクレアの姿に、兵士が目に驚きの色をにじませる。
 表情が完成する頃には既に目の前。
 兵士が防御魔法を展開し始める。
 残念ながらもう手遅れ。

「っっぁ!」

 直後、兵士の顔が激痛に歪み、その口が大きく開いた。
 しかし大きな悲鳴は漏れない。
 肺を貫かれたからだ。その胸は真っ赤に染まっている。
 クレアは同じ色に染まった左貫手を脇の下に戻しながら、次の目標へ視線を合わせた。
 これにリックが声を上げる。

「母上!?」

 そんなに派手に動いて大丈夫なのか、という意味を込めた呼び声。
 対するクレアはいらぬ心配だと言わんばかりに、力強い声を返した。

「私に合わせなさい! リック!」

 言葉が耳に入ったのとほぼ同時に、リックは母へ向かって地を蹴っていた。
 クレアの前方に五人の大盾兵が壁を成す。
 それを見たクレアは地を蹴ってさらに加速。
 その勢いを乗せつつ、

「せえやっ!」

 踏み込み掌底打ち。
 直撃を受けた中央の大盾兵が吹き飛び、それに押されて左右の四人がよろめく。
 好機。右の大盾兵に追撃を、そう考えたクレアが地を蹴るための低姿勢を取る。
 その瞬間、

「!」

 クレアの視界に影が差した。
 頭上に何者かがいる。
 しかし不安は無い。それが誰かはわかっている。
 その者、リックは屈んだクレアの頭上を飛び越え、

「でえぁ!」

 前方にいた二人の大盾兵をなぎ払うように、右足を横に一閃した。

「「っっ!」」

 声にならない悲鳴を上げながら、二枚の壁が吹き飛ぶ。
 残るは両端の二人。
 クレアが膝に込めた力を解放し、右に跳ぶ。
 左の方を頼むと、声を発する必要は無かった。
 同時にリックが左に跳んでいたからだ。
 二人が地を蹴った音は完全に重なっている。
 踏み込みながらクレアは左手を、リックは右手を脇の下に構えた。
 形は双方とも開手。
 二人の軸足が地に着く。これも同時。
 流れるような動作で脇の下に込めた力を解放する。

「「破っ!」」」

 ぴったりと重なった気勢と共に放たれた二つの掌底打ちは、二人の大盾兵を派手に吹き飛ばした。
 大盾兵の体が地の上を滑る。
 地を削るその音を聞いてようやく、リックは先の連携の異常性を認識した。
 なぜ自分は母が右に飛び出すことが分かったのだろう。
 その直前もそうだ。母が屈むのを事前に感じ取れた。

(もしや、)

 防御のみに限定する必要は無いのではないか?

(……試してみるか)

 リックがそう決意した瞬間、クレアがバージルの背に向かって駆け出した。
 そしてリックの足も同時かつ同じ方向へ動き始めていた。
 無意識の行動であった。自然と足が動いていた。
 これに確信めいたものを抱いたリックは、走りながら夢想の境地に身を委ねた。
 体から力が抜け、足取りが鋭いものから軽やかなものに変化。
 進行方向を少し右に傾ける。
 直後、前を行くクレアの進路も同様に変化。
 夢想の境地を完全に発動したためか、リックの動きがクレアの先を読んだものになっている。
 二人の目標は敵魔法使い達。
 先の大盾兵達と同じく横一列に並んだその魔法使い達は、バージルの背中に向かって右手をかざしている。
 そしてその手が発光を始めた瞬間、クレアは力強く地を蹴った。
 だん、という大きな音が場に響いたと同時に、クレアの影が伸びるように加速する。
 この音から魔法使い達はクレアの接近に気が付いた。
 魔法使い達がクレアの方に向き直り、その手を眩しく輝かせる。
 連続で放たれる光弾。それらをクレアは真っ直ぐに迎え撃った。
 一切減速せず、光る手刀で次々と切り払う。
 しかし最後の一発だけは違った。クレアはそれを足場にして跳躍した。
 小さな跳躍。人を越えられるかどうかという高さ。
 クレアは滑空するように低空を舞いながら、右かかとに魔力を収束させた。
 狙いは正面にいる魔法使いの頭蓋。頭上に差し掛かったと同時に踏み砕く。
 しかし直後、目の前にいる魔法使いが突如上を向いた。
 クレアの跳躍に反応したわけでは無い。視線は完全に真上。まるで踏んでくださいと言うかのように空を見上げている。
 彼は自らの意思で上を向いたわけでは無かった。
 アゴを跳ね上げられたのだ。
 砕けたアゴのすぐ下に別人の手の平がある。
 リックの手だ。リックは跳躍したクレアの下をくぐり抜け、突き上げ掌底打ちを放ったのだ。
 空に向かって晒された無防備な顔面。クレアはその鼻っ柱に向けて輝く右かかと振り下ろした。

「っぐが!」

 顔面がひしゃげる感覚が足の裏に伝わり、くぐもった悲鳴が耳に入る。
 そしてクレアは魔法使いの顔を足場にして左に跳躍した。
 先よりも小さな、横に移動するだけという感じの跳躍。
 狙いは当然左方にいる魔法使い。
 飛びながら、クレアは腰を前へ深く折り曲げた。
 赤く染まった足が綺麗な弧を描き、真上に振り上げられる。
 頭は逆に真下へ。逆立ちのような姿勢。
 クレアは頭がちょうど真下へ向いたと同時に、左手を振り下ろした。
 そこにあるのは魔法使いの頭頂部。
 振り下ろされたクレアの左手がそれを鷲掴みにする。
 その直後、クレアは魔法使いの頭を握ったまま腰を鋭く捻った。
 回転の力がクレアの腰から左腕へ、そして魔法使いの頭に伝わる。
 しかし、その力の伝達は魔法使いの首のところで止まった。
 魔法使いの首筋から「ごきり」という嫌な音が鳴り、顔が胴と真逆の方向を向く。
 そのねじ切ったような感触を確かめたクレアは手を頭から放した。
 自由落下に身を任せながら姿勢を元に戻す。
 都合がいいことに着地点には別の魔法使いがいる。
 クレアは残っていた回転の勢いを利用して、右足を一閃した。
 光る爪先が防御魔法を貫き、魔法使いの胴を薙ぐ。

「ごはっ!」

 防御魔法が破れる音と悲鳴が響き渡る中、静かに地に舞い降りる。
 これで左側にいた魔法使い達は全て倒した。
 そして右側の心配をする必要も無い。
 たった今、最後の一人がリックの拳に倒れたのを感じ取ったからだ。
 だからクレアはリックへ視線すら送らず、爪先をバージルの方に向けた。
 ヨハンの背を追うバージルの眼前には陣が広がっている。
 ヨハンはその中に逃げ込んだ。
 陣の門はまさに今閉じられつつある。
 門前には多くの兵士が詰め掛けている。締め出されまいと必死なのだ。
 しかし無情にも、その門は彼らを外に残したまま閉ざされてしまった。
 入り損ねた兵士達が門に張り付き、叩き、声を上げる。
 非難の声は重なり、山彦のように広がった。
 バージルは門前に出来たその黒山に対し、光る槍斧を振るった。
 地に水平に放たれた三日月が黒山の中に吸い込まれるように食い込む。
 非難の声が絶叫に変わり、黒山は赤く染まった。
 間を置かずにバージルが水平に振りぬいた槍斧を正面に構える。
 槍先から光る傘を展開し、突撃。
 これに先の一撃を生き残った兵士達が迎撃の光弾を放った。
 が、バージルの足は止まらない。
 光る傘が光弾を次々と弾き返し、先頭に立っていた兵士にその輝く先端が突き刺さった。
 そしてバージルは前と同じく、刺さった兵士の体を投げ捨てるように槍斧を真上に振り上げた。
 同時に放たれた縦の三日月が放り捨てられた兵士の体と、奥にいた二人を切断し、そのまま門に食い込んだ。
 木目に大きな縦の亀裂を作り、裏にかけられていたかんぬきまで切断。
 所詮急ごしらえの門。その木板は決して厚いとは言えず、構造も頑丈とは言えない。
 そしてその衝撃に門は僅かに開いた。
 バージルの眼に陣内の景色が縦細く映りこむ。
 バージルは覗き見えるその光景に向かって左手を突き出した。
 隙間から差し込まれる光を圧倒するかのように、バージルの左手が眩く輝く。
 生み出された光の壁は激しく叩き付けられ、細く開いていた門にとどめを刺した。
 戸板が砕け飛び、木屑が陣内に舞い散る。
 門の向こうには数多くの兵士が待ち受けていた。
 左右には防柵が立ち並んでおり、短いが直線通路になっている。
 侵入者を正面から迎え撃つための構造だ。
 浴びせられた木屑に対してのお返しとばかりに、敵魔法使い達の手から光弾が一斉に放たれる。
 これをバージルは光の壁で受けつつ突進。
 光の壁が敵集団の最前列に並ぶ大盾兵達とぶつかりあう。
 バージルの手に伝わる激しい衝撃。
 しかし構わず、バージルは足に力を込めた。
 これまでと同じように押し破ろうと考えたのだ。
 が、

(?! 止められた!?)

 バージルの足は前に進まなかった。
 それどころか押し返されつつある。
 兵士の密度がこれまでの比では無い。
 そして道幅があまり広くないことも問題だ。左右が障害物になっているため、力の逃げ道が奥にしかない。ゆえに兵士の列を左右に押し広げて破る、ということが出来ないのだ。これを押し通るには目の前にいる全員を奥へ将棋倒しにするしかない。
 背後からは門前にいた兵士達がなだれこんで来つつある。
 マズい。このままだと挟まれ、圧殺される。
 バージルの心に焦りが芽生え始める。
 直後、

「リック!」

 と、真後ろにいたクレアが声を上げた。
 呼ばれたリックが両腕を真上に振り上げる。
 クレアはその空に向けて広げられた息子の両手の平の上に飛び乗るように跳躍した。
 そしてクレアの足裏がリックの手の平に触れた瞬間、

「「はっ!」」

 二人は同時に気勢を発し、クレアは足裏を、リックは両手の平を輝かせた。
 リックの両手から生まれた防御魔法がクレアの体を舞い上げる。
 その跳躍は上に昇ることを重視した鋭利な軌道。
 狙いは、落下点は敵集団の後尾。
 それに気付いた後列の魔法使い達が対空攻撃を放つ。
 その下からの攻撃を、クレアは光る右足で淡々と蹴り払った。
 いとも簡単げに防御された事実から「これは撃ち落せない」と判断した一部の魔法使い達が逃げ始める。
 しかしそれが出来たのは最後尾の者達だけであった。隊列の密度は速やかに動くことが難しいほどに高くなってしまっていた。
 落下点にいる魔法使い達の瞳にあるクレアの像がみるみるうちに大きくなる。
 そしてその姿が彼らの瞳を埋め尽くすほどにまで大きくなった瞬間、

「砕っ!」

 クレアは輝く右足を振り下ろした。
 足裏から防御魔法が展開される。
 重力による加速の力を受けたその光の幕は真下にいるものだけでなく、隣接していた者の頭まで押さえ、そして潰した。
 着地と同時に、脇の下に構えておいた左貫手を三閃。
 傍にいた三人の兵士の体が裂け、血しぶきが舞う。
 その赤が降りかかるよりも早く、クレアは地を蹴り、防柵の上に飛び乗った。
 逃げた分を含めれば十分な人数を減らしたと判断したからだ。
 直後、

「うあぁぁ!」

 クレアの予想通り、バージルを食い止めていた壁は決壊した。
 倒された兵士達が次々と光の壁の下敷きになる。
 何名かはかろうじて轢死を避けたが、

「ぐぇっ!」

 その幸運な者達の命もリックの追い討ちによって消えていった。
 そして壁の残骸を乗り越えたバージルは声を上げた。

「ヨハン!」

 目標の名を叫ぶ。
 これで相手が足が止めてくれるなどとは思っていない。ただ威圧したかっただけである。相手の心に声を叩き付けたいだけなのだ。
 直後、その声に応えるかのように、バージルの前方に三人の魔法使いが姿を現した。
 ヨハンの側近だ。
 これにバージルは自身の心が昂ぶるのを感じた。
 ここに重要戦力である側近を置いていったということは、ヨハンが近くにいるか、またはかなり焦っているということ。
 ヨハンを追い詰めている、その昂ぶる事実に身を委ねたバージルは走りながら構えた。
 足を前に出しながら槍斧を水平に一閃。
 斧頭が描いた三日月の軌跡が光る刃となって放たれる。
 対する三人の構えは防御。
 身を寄せ合いながら前にかざした手を重ね合わせ、防御魔法を合体させる。
 三つの手の平から作り出された目に眩いほどの防御魔法。バージルが作り出す光の壁と同等に見える。
 バージルが放った三日月はその壁にわずかに食い込んだが、

「!」

 直後、三日月は甲高い音を発しながら砕け散った。
 軽く止められたように見えた。我が三日月の力はアンナが放ったあれには遠く及んでいないということが明らかになった。
 ならば、と、バージルは光の壁を展開。
 三人が放つ反撃の光弾を受け止めながら突進。
 そして、あと三歩でぶつかり合う、というところまで距離が詰まった瞬間、

「ぐっ!?」

 バージルの体が大きくよろめいた。
 原因は真横から飛んで来た光弾。
 威力からして目の前にいる側近が放ったものだ。
 どうやって? その答えは今まで提示されてきたものと同じ、跳弾だ。この三人は閃光魔法以外なら大抵のことは出来るのだ。
 しかしバージルはすぐに体勢を立て直した。
 幸運にも槍斧に当たっていたからだ。
 いや、不運かもしれない。
 バージルは気付いていない。自身の槍斧に亀裂が入ってしまったことを。
 自身の武器が限界を迎えたことも知らぬまま、バージルは光の壁を三人が展開する防御魔法にぶつけた。
 瞬間、バージルの足がぴたりと止まった。
 互角であった。持続力は分からないが、硬度は間違いなく同等。
 押し合うだけの膠着状態である。が、バージルはこのままでいいと思っていた。
 その理由はすぐに明らかになった。
 バージルの背後に二つの影が迫っている。
 クレアとリックだ。
 その足音に側近達も気が付いた。
 僅かに先行していたクレアがバージルの左横を駆け抜ける。
 バージルから見て左側に立つ側近は、自身の視界にクレアの姿が映ったと同時に、右手をかざした。
 しかし遅い。その手の平が発光し始めるよりも早く、クレアが一閃。
 肘関節への一撃。クレアは自身の指先が相手の肘に触れたと同時に、そこから魔力を発散させた。

「っっ!」

 指と肘の接点が眩く輝き、側近の顔が苦悶に歪む。
 側近の腕は嫌な音を立てながらありえない方向へ曲がり折れた。
 ここでクレアは手を止め、反対側に回り込んだリックの方をちらりと見た。
 リックは相手の動きを関節技で封じていた。
 バージルから見て右側に立つ側近から左手を向けられたリックは、目にも留まらぬ速さでその左腕を掴み、捻ったのだ。
 そしてリックはその手の平が空の方へ向くように捻り上げつつ、相手の脇の下に入り込んだ。
 これで相手はもう何も出来ない。左手から光弾を放っても空に向かって飛ぶだけだ。防御魔法を展開しても同じ。脇の下に潜り込んでいるから接触することは無い。そして右手のほうはバージルを食い止めるために光の壁を維持し続けなければならない。
 安全を確保したリックはクレアと目を合わせ、「いつでもどうぞ」という意思を返した。
 それを察したクレアは声を上げた。

「中段!」

 攻撃箇所の指定である。
 しかし中段は広い。打つにしても選択肢は一つでは無い。
 にもかかわらずクレアがそう指示したのは、中段ならどこを打ってもいいと判断したからだ。
 その中からクレア自身はみぞおちを選んだ。
 そして、リックの深層意識はそれをしっかりと読み取っている。
 必然的に二人の型は同じものとなった。

「「破っ!」」

 左右から挟みこむように放たれたリックとクレアの突きが、側近のみぞおちにめりこむ。
 リックとクレアの腕を棒と見立てて三人を串刺しにしているかのような形。
 クレアとリックの手に内臓を破壊する感触が伝わった。
 打たれた二人の顔が苦悶に歪み、展開している協力魔法の輝きが弱まる。
 それを確認したクレアとリックは同時に後方へ飛び退いた。
 その直後、膠着状態は崩れた。
 バージルの光の壁が協力魔法を押し破り、後ろにいた三人を撥ね飛ばしたのだ。
 そしてバージルは地の上を滑る三人に向かって槍斧を構えた。
 追い討ちである。
 しかしこれにリックが声を上げた。

「待て、バージル!」

 この時、リックの脳内ではアランの「台本」と似たような現象が発動していた。
 それをすれば何が起きるか、ということをリックの「夢想の境地」は映像という形で理性に伝えたのだ。
 そして理性はそれを止めるために声を上げさせた。
 が、バージルは止まらなかった。
 耳障りな軋みを上げる槍斧を一閃。
 地に対し低く水平に放たれた三日月が三人の体を切り裂く。
 直後、三日月はこれまでに無い変化を見せた。
 まるで束ねていた糸が分解するかのように、三日月は数え切れないほど何本もの細い光の線に別れ、そして消えた。
 それを見てバージルはようやく自身の武器に起きている異常に気がついた。
 軋みを上げる槍斧へ視線を向ける。
 槍斧には何本もの光の線が走っていた。
 線は様々な形を作り、美しい模様となっている。クレアが桁外れの速さを見せた時に、その身に描かれていたものと少し似ている。
 その模様がひび割れの発光によるものだと気付いた瞬間、

「!?」

 バージルの手に強い衝撃が走った。
 槍斧が手から離れ、空へ舞い上がる。
 リックに武器を蹴り上げられた、と気づいた時には彼は既にバージルの傍から離れていた。
 リックはクレアの傍へ一足で駆け寄り、

「母上!」

 その勢いのまま、母の体を突き飛ばした。
 しかも素手ではなく、防御魔法でだ。
 クレアは光る左手で防御したが、その身は吹き飛び、地の上を滑った。
 追い討ちをかけるかのように、リックが倒れたクレアのもとへ迫る。
 そしてリックはクレアの目の前で足を止め、振り返った。
 宙を舞う槍斧に向かってリックが構える。
 直後、

「「!!!」」

 クレアとバージルの顔が驚きに染まった。

荒れ狂う光

 甲高い音と共に槍斧が弾け、そこから大量の光の線があふれ出たのだ。
 線は重なり、そして回転し、光る渦となって三人を飲み込んだ。

「うぁあああ!」

 刹那遅れて巻き込まれた敵兵達の悲鳴が上がる。
 閃光に白む視界の中、肉を裂く音と絶叫が響く。
 その音が止んでから数秒後、閃光はようやく薄れ始めた。
 回復した視界に映った次の色は赤。
 周辺は地獄の様相を呈していた。
 しかしクレアは自身を庇った息子と、そしてバージルの二人だけを見た。
 そして二人の体の上に新しい血が流れていることにクレアが気付いた瞬間、リックとバージルは同時に地へ膝をついた。
 光の壁で防御したからか、バージルは比較的軽傷だ。膝をついたのはふとももを射抜かれたせいだろう。
 しかし、我が息子のほうは――

「リック!」

 その凄惨さに、クレアは思わず声を上げ、倒れつつある息子の体を抱きかかえた。
 あの閃光の渦の中で、クレアはリックが何をしたのかを全て見ていた。
 リックは飛んで来た光の矢を手刀で叩き払ったのだ。
 しかしその数はあまりに多い。全ては捌けない。
 だからリックは致命傷になるものだけを防御した。小さい矢のほとんどは無視し、なすがままにその身を切り裂かせたのだ。
 クレアは周囲を警戒しながら、息子への応急手当を開始した。
 が、警戒する必要性はあまり無いようであった。敵兵は撤退を開始していた。
 その逃走に統率は無い。それぞれ好き勝手に逃げている。明らかに敵部隊は壊走し始めている。
 総大将であるヨハンが仲間を盾にしながら全力で逃げているうえに、最大戦力である側近が全員倒されたのだから当然かもしれない。
 しかし今の状況は敵にとって好機だ。バージルが足を負傷したうえ、リックは戦闘不能になったのだから。
 だが今の敵兵達にその事実は見えていないようであった。
 そして間も無く、クレアの周囲から人の気配が消えた。
 勝利である。
 が、クレアの心にそれを祝う余裕は無かった。
 しかしただ一人、安全な場所から戦況をうかがっていた男、カイルだけがクレア達の勝利へ祝福を送っていた。

(この絶望的状況を覆すとは思わなかった。見事と言わざるを得ない)

 カイルは心の中で拍手をした後、今後のことを思案し始めた。

(さて、私はこれからどうするか……我が主はどこへ逃げたか分からない……やみくもに探しても見つかる可能性は低そうだ)

 だからカイルは無難な選択肢を選んだ。

(ここは一足先に本拠へ戻り、主の帰りを待つことにしよう)

 体を出発地点の方へ向ける。
 そして足を一歩を進めた瞬間、カイルの脳内に名案が浮かび上がった。

(……しばらく時間がありそうだし、町のどこかに監禁されている父と母を捜してみるか)

 それでもし見つけることが出来たらどうするか、そんなことを考えながらカイルは戦場を後にした。

   ◆◆◆

 その夜――
 ヨハンはとぼとぼと山の中を歩いていた。
 普段使われていない道なのか、やや歩き難い。
 来るときには通らなかった道だ。
 ヨハンは自身の足元に注意しながら歩いていた。
 ゆえにその歩みはゆっくりとしたものだ。
 ヨハンの後ろには兵士の渋滞が出来ている。
 しかしその数は少ない。数十名ほどだ。
 うちの一人が石につまづき、周囲にいた者を巻き込みながら倒れる。
 派手でみっともない音が周辺に木霊した後、山の中に吸い込まれて消えた。
 その兵士は先ほどから何度も転んでいた。
 しかしヨハンはそれを注意しようとはしなかった。
 彼は足を負傷しているのかもしれない、などと気遣ったからでは無い。
 単純にその気力が無かったからだ。
 ヨハンはその兵士のことなぞ気にかけず、周囲を見回した。
 相変わらず暗い森しか見えない。
 ヨハンは自分がどこにいるのか分かっていなかった。
 あの後――戦場を離れ、来た道を戻り撤退していたところまでは問題無かった。
 しかしその途中、追いついていきたリックの部隊と鉢合わせてしまったのだ。
 戦いにもならなかった。統率が無くなっていた我等は精鋭でもなんでもない敵に蹴散らされた。
 そして森の中に逃げ込み、現在に至る。

「……」

 これは本格的に迷ったか、そんな考えがヨハンの脳裏に浮かび上がった。
 しかし、その事実が気にならないほどに、ヨハンの心は重く暗い場所に沈んでいた。
 ヨハンの意識は「またなのか」という言葉に支配されていた。
 あの時と、カルロに負けた時と同じなのだ。

(また、またあんな思いをすることになるのか、私は――)

 あの敗北の後、周囲の者達は私を見る目を変えた。

「あんな負け方をするとは。失望したね」
「あんなやつを英雄だなんだともてはやしていた馬鹿は誰だ?」
「次の王はあいつだと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ」

 そんな視線。噂。民達の声。あれを、あんな嫌な思いをもう一度味合うことになるのか、私は。
 かつての私はそこから這い上がった。しかし次はどうだろうか? また同じことがやれるのだろうか? 私はもう若くない。

「……」

 状況はあの時と同じだが、ヨハンの心境は全く違っていた。
 あの時は心の中に燃えるような執念があった。
 しかし今は何も無い。何も湧かない。

「……」

 ヨハンはその虚無感を引き摺るかのように、重くなった足を一歩前に出した。
 瞬間、

「前方に人影!」

 真後ろから飛んできた声に、ヨハンの背筋は「ぴん」となった。
 ヨハンを守るために兵士達が前へ出る。
 ヨハンは後退しながら、前方に目を凝らした。
 確かに人影のようなものが見える。闇の中にぼんやりと人の形をした輪郭が見える。
 しかもひとつやふたつじゃない。相当な数だ。
 そして直後、正面の闇に「ぼう」っと、小さな光の輪が浮かび上がった。
 光源はたいまつ。
 それを握っている者の顔が照らし出される。
 その者の顔を見たヨハンは、自身の体から緊張が抜けるのを感じた。
 ヨハンはよく知っているその者の名を呼ぼうと口を開こうとした。
 が、相手のほうが先に声を上げた。

「ご無事でしたか! ヨハン様!」

 呼ばれたヨハンは兵士の壁を掻き分けながら前に出で、声を返した。

「その声はサイラスか!」

 たいまつを持ったサイラスが歩み寄ってくる。
 瞳の中で大きくなるその姿を見つめているうち、ヨハンは「どうしてここに?」などの当然の疑問を抱いたが、

「ここは危険です。近くを敵がうろついておりますゆえ。まずは安全な場所へご案内いたします。細かい話はその後で」

 危機感を煽るサイラスの台詞に、ヨハンは素直に従ってしまった。

 このサイラスの台詞は嘘である。サイラスは周辺に敵がいないことを知っている。
 そしてこの時、サイラスはヨハンでは無く、別の者を見ていた。
 それはヨハンの後ろにいる一人の兵士。
 何度も転んでいたあの兵士である。
 サイラスはその者に「よくやった」という視線を送った。
 彼はわざと転び、その音で位置を知らせていたのだ。
 彼はサイラスの私兵であった。ヨハンの部隊が壊走を始めた時に紛れ込んでいたのだ。

   ◆◆◆

 深夜――

 サイラスの部隊が設営していた陣に案内されたヨハンは、用意された幕屋の中で腰を下ろし、人心地をついていた。
 一本の杭と布で屋根をこしらえただけの簡易な幕屋。下は薄く藁が敷かれているだけ。雨風と他人の視線を防ぐことしか出来ないものだ。
 いつものヨハンならばこんな場所に甘んじることなどありえない。
 が、ヨハンは黙ってその場に座った。
 心身共に疲れきっていたからだ。
 しかし体を横に倒すことはしない。
 なぜだか、そんな気になれないのだ。
 戦いの緊張が抜けていないからだろうか?

(……いや、なにか違う)

 その「なにか」がなんなのか分からない。だから横になれないのだ。

「……」

 いくら考えても答えは出ない。
 だからヨハンは小さな疑問から、答えが出そうな問いから片付けていくことにした。
 そのためにはサイラスと話をしなくてはならない。
 しかし今は深夜。するにしても夜が明けてからのほうがいいだろう。

「……」

 ここで再びヨハンの心が「なにか」に引っかかった。
 話をするならば今すぐでなくてはならない、そんな気がするのだ。
 そして、話すにしても慎重に進めなければならない、という感じもする。
 出来るならば、自身の中で結論を出し、サイラスと話さずに事を終えるべきだ、という感覚もある。

「……」

 分からない。自分は何に引っかかっているのか、何を見落としているのかが分からない。
 何かに急かされているような感覚。その感覚は焦りに転化しつつある。

「……」

 ここは一度外の夜風に当たって気持ちを落ち着けるべきだ、そう思ったヨハンが立ち上がろうとした瞬間、

「敵襲だ!」

 突如耳に入った鋭い声に、ヨハンの体は飛び上がった。
 その勢いのまま幕屋から飛び出す。
 外ではヨハンと同じように声を聞いて出てきたらしき部下達が敵の姿を探していた。
 ヨハンも辺りを見回してみるが、何も見当たらない。周りには暗い森が広がっているだけだ。
 しばらくして部下の一人が声を上げた。

「敵はどこだ!?」

 これに誰かが答えた。

「あっちだ!」

 場にいる全員が声がした方向へ向き直る。
 声は森の中から聞こえてきた。
 その暗闇の先に敵がいるのか? ヨハンの部下の一人がそれを尋ねようと口を開きかけた瞬間、

「来るぞ! 全員集まれ! 隊列を組んで迎撃しろ!」

 再びの森からの声。
 今度はそれだけでは無い。大勢の足音も聞こえる。
 それらの音を耳にしてようやく、ヨハンの部下達は行動を開始した。
 敵の場所を尋ねた兵士が再び口を開く。

「十人はこの場に残ってヨハン様を守れ! 残りは私についてこい! 敵を迎撃するぞ!」

 これに比較的若い者達が気勢を返すと、声を上げた兵士はその若者達を引き連れて森へ突撃していった。
 残ることが決まった兵達もほぼ同時に動き始める。
 声がした方向に向かって四人が壁を作り、残りの六人がヨハンの背と左右を守るために円陣を組む。
 その直後、

「ヨハン様!」

 左から飛んで来た呼び声にヨハンが視線を向けると、そこには部隊を引き連れ近づいてくるサイラスの姿があった。

 ここでヨハンは気付くべきだった。部隊を連れているならば、もっと早くにその接近を察知できたはず。それが出来なかったということは、サイラス達は音を立てずに闇の中で伏せていたということなのだから。ヨハンの中にある「まさか、サイラスに限ってそんなことあるはずがない」という感覚がそれを邪魔していた。

 残念ながらこれはそのまさかなのだ。

 サイラスはヨハンのそばに駆け寄りながら声を上げた。

「ヨハン様を囲むように円陣を組め!」

 瞬く間に、ヨハンの兵達が形成するそれとは比べ物にならないほどの厚みを持った円陣が作られる。
 その中心にいるヨハンは安心した。安心してしまった。
 直後、新しい音がヨハンの耳に入った。
 戦闘音。それも近くから。ヨハンの兵の一部が入っていった森の中から聞こえてくる。
 その音はすぐに止まった。どうやら小さな戦闘だったようだ。
 そして、ヨハンの隣の立っていたサイラスが不思議な行動を取った。
 右手を上げたのだ。
 それは攻撃の合図に見えた。
 その手が前に振り下ろされたと同時に、兵士達は何かしらの行動を起こすだろう。
 ヨハンは疑問に抱いた。
 兵士達に突撃をかけさせるつもりなのか? ここは一度撤退すべきなのでは? そう思った。
 しかしそれを声にする間も無く、サイラスはその手を振り下ろした。
 瞬間、

「ぐぁっ!」

 ヨハンの耳に悲鳴が飛び込んだ。
 かなり近い。隣から聞こえた。
 しかし攻撃音も閃光も無かった。ということは弓矢か? 
 そんなことを考えながら悲鳴がした方にヨハンが視線を向けると、

(?!)

 そこには棒状のものに胸を貫かれている部下の姿があった。
 攻撃の正体は弓じゃない。剣だ。
 しかもその剣を握っているものは敵兵じゃない、サイラスの――

「がぁっ!」「あぐ!」

 ヨハンが考えをまとめる暇も無く、部下達は目の前で切り殺されていった。
 誰に?
 それはサイラスの兵達だ。
 そして最後の一人の命が消えた瞬間、ヨハンはやっと声を上げることが出来た。

「貴様ら! 一体どういうつもり……っ?!」

 しかしヨハンは言葉を最後まで発することが出来なかった。
 なぜか?
 両手が切り落とされたからだ。
 悲鳴を上げる間も無く、今度は足首。
 支えを失ったヨハンの体が地に落ちる。
 丸太のようになってしまった両手足から血が噴水のように流れ出る。
 凄惨な光景である。が、ヨハンの目は別のものを見ていた。
 それは自分を斬った男の一人。
 その者、サイラスは血が滴る剣の切っ先をヨハンの首元に突きつけながら、口を開いた。

「こういうつもりなのだよ、ヨハン」

 剣の切っ先からぽとり、ぽとりと、赤い雫が落ちる。

「……」

 ヨハンはその様を見つめていた。
 この瀬戸際にきてヨハンの思考は恐ろしいほどに冴え始めていた。
 しかし、その思考は「どうやったらこの場を切り抜けられるか」ということを考えているわけでは無かった。
 なぜならそれは不可能だからだ。
 両手が無くては魔法が使えない。
 そしてこの足ではもう走れない。
 だからヨハンはサイラスのことを考えていた。
 彼はなぜこんなことをするのか。
 理由はなんでもいいし、どうでもいい。他人からの恨みなぞ、数え切れないほど買っている。
 知りたいのは、なぜサイラスは自分をすぐに殺さないのかということだ。
 その問いの答えはすぐに予想がついた。

(たぶん、こやつは、こやつらは私をいたぶりたいだけなのだ)

 だからこんな半端なことをしている。

「……」

 ヨハンは血が滴る切っ先を見つめながら、どうやって死ぬかを考え始めた。
 彼らは私にどうしてほしいのか。泣き喚き、命乞いでもしてほしいのか。
 私はそんなことはしない。さっさと首でも落として終わらせてほしいと思っている。
 どうすればそうしてくれる? そう言えばいいのか?

「……」

 判断がつかないヨハンが沈黙を返していると、サイラスが口を開いた。

「……最後に何か言い残したいことはあるか?」

 この言葉に、ヨハンは「ありがたい」と思った。
 何か言えば綺麗に終わらせてくれる。
 最後の問題は何を言うかだ。
 それはすぐに思いついた。

「……」

 が、ヨハンはそれをすぐには口に出さなかった。
 奇妙な感情が芽生えたからだ。
 思いついたこと、それは残される家族のことでも、財産のことでも、教会のことでも無かった。
 久しく抱いたことが無かった感情がヨハンの中にあった。

 武の神はヨハンに最後の祝福を与えていた。

 ヨハンは国の未来を考えていた。純粋に、そして真剣に。

 この時のヨハンには「利己」などの「欲」から来る概念は存在しなかった。自身の命が終わることを覚悟してようやく、ヨハンは「己」というものを捨て、「国の未来」というものに真摯に向き合えたのだ。

 残すべき言葉はこれしかない、サイラスにこの事を教えておかねばならない、とヨハンは思った。

「……」

 遺言が決まったヨハンは、言葉を選ぶことを始めた。
 これはとても慎重にやらなければならない。相手の感情を激しく煽るような言葉はダメだ。真剣に受け止めてもらわなければならない。
 しかし淡白でもいけない。思わせぶりな言い回しにしなくては。サイラスに興味を持ってもらわねばならないのだ。

「……」

 静寂が場を支配する。
 その静けさがサイラスの気を揉み始めてようやく、ヨハンは口を開いた。

「サイラス」

「……なんだ」

「……お前のところに『使者』は来たか?」

   ◆◆◆

 翌朝――

 リックは全身の痛みと共に目を覚ました。

「……っ」

 顔をしかませながら、ゆっくりと上体を起こす。
 直後、

「動いてはいけませんよ、リック」

 声が響いたと同時にドアが開き、その奥からクレアが姿を現した。
 その左手には杖が握られている。
 それを見たリックは、

(やはり母の左足は――)

 もう使い物にならないのだ、ということを察した。
 戦場で再会した時に感じてはいた。母の左足が死んでいることを。
 しかし認めたくなかった。

「……」

 残酷なその現実に、リックは沈黙するしか無かった。
 そして、そんな息子の心境を知ってか知らずか、クレアは口を開いた。

「傷の具合はどうですか? リック」

 この質問にリックは誇張無く正直に答えた。

「……傷は多いですが、後に問題を残すようなものはありません。時間が経てば完全に回復するでしょう。現時点でも歩くくらいなら可能です」

 これにクレアは笑みを見せながら口を開いた。

「それはよかった。ですが無理はいけませんよ。しばらくは安静にしていなさい」

 これで話は終わりかとリックは思ったが、そうでは無かった。
 クレアは言葉を続けた。

「それでリック、その後の事ですが――」

『その後』とは、自分の傷がある程度まで回復した後、ということだろう。
 リックは黙って母の言葉に耳を傾けた。

「こうなってしまった以上、この場に長く留まることは出来ません。我々はここから離れるべきでしょう」

 これにリックは口を開いた。

「ここを発つことに異論はありませんが、どこへ?」

 クレアの答えは意外なものだった。

「炎の一族のもとへ、カルロが治める地へ向かいます」

 リックは当然のように理由を尋ねた。

「カルロが治める地へ? なぜです?」

 クレアはゆっくりとそれを語った。

「……炎の一族が教会と決別した時、彼らについていった者達がいるのです」

 これを聞いた瞬間、リックはその一部の者達によくない印象を抱いたが、それは間違いであることをクレアは説明した。

「それは身内で意見が割れたことが原因ではありません。何があっても一族の血が絶えぬようにと、安全策を打ったのです。炎の一族と教会のどちらが勝つか分かりませんでしたから」

 リックは納得の頷きを返しながら、口を開いた。

「なるほど。で、その者達の名はなんと?」

 これにクレアは少し悩ましい顔で答えた。

「……二つの家が炎の一族についていったのですが、うち一方は無くなってしまいました。もう一方が現在カルロの世話になっており、現当主の名はルイスといいます」

 リックはそのルイスという者がどのような人間なのか尋ねようと思った。
 しかし今はやめておくことにした。
 その理由はクレアがドアの方に視線を移したことと同じである。
 間も無く、部屋にノックの音が響いた。

「どうぞ」

 クレアが声を返すとドアが開き、奥からバージルが姿を現した。
 バージルは光の矢に貫かれた右足を松葉杖でかばいながらゆっくりと室内に入り、クレアに向かって口を開いた。

「突然ですまないが、俺は今から家に帰らせてもらう」

 この言葉にクレアは違和感は抱かなかったが、今からとはやけに急だな、と思った。
 その理由をバージルは口に出した。

「こうなってしまったことを、教会に楯突いたことを一刻も早く父に話しておきたくてな」

 それならば仕方が無い。引き止める理由は無い。そう思ったクレアはバージルに送別の言葉を送ろうと思ったが、バージルは続けて口を開いた。

「……我が父は温厚なほうだが、これにはさすがに怒り狂うかもな。殺されはしないとは思うが、勘当くらいはされるかもしれない」
「……」

 バージルが放った不穏な言葉に、クレアは送る言葉を見失ってしまった。
 が、当のバージルは薄い笑みを浮かべながら口を開いた。

「それでは。二人ともお元気で」

 そう言って小さい礼をするバージルに見てようやく、クレアは心に浮かんだ言葉を発することが出来た。

「ええ。バージルもお元気で」

 しかしそれは先に考えたものと比べると非常に淡白なものであった。
 そしてバージルは入ってきた時と同じようなゆっくりとした歩みで部屋を出て行った。

「……」

 その背を静かに見送ったクレアはしばらく間を置いた後、リックの方に向き直った。

「息子よ、バージルのことで話しておかねばならないことがあります」

 これにリックは身を少し硬くした。
『息子よ』、そう切り出す時は決まって、大事な話であるからだ。
 そしてクレアはリックが予想した通りの、いやそれ以上の内容を口に出した。

 クレアは先の戦いでバージルの身に何が起こったのかを、感じたままにリックに話した。
 そして自身が使った最終奥義のことも全て教えた。

「……」

 それを聞いたリックは何の言葉も返さなかった。
 正確には返せなかった。
 リックの中にあるのは武の頂が、目指すべき場所が、目標が遠のいた感覚。
 この感覚は先日既にあった。戦いの中で感じていた。バージルの中で凄まじいことが起きていることは分かっていた。
 しかしそれが何なのかははっきりと分からなかった。「夢想の境地」は事の詳細を教えてくれないことがほとんどだ。その感覚はいつも曖昧である。
 しばらくして、リックの中に別の感情が湧きあがってきた。
 それはこの傷を早く治したいという願い。
 そして修行したいという思い。
 新たな力への欲求が、リックの心を支配しつつあった。

「……」

 が、リックはただ静かに、遠くにいる存在に、武の神に祈りを捧げた。

 しかし武の神はその視線を別のところに向けていた。
 先ほどまではリックとクレア、そしてバージルの三人を見ていた。
 もうしばらくはリックを見る必要は無い、と武の神は思っていた。
 彼の心には新たな種が蒔かれた。それが芽吹くまで時を待てば良い。
 いま武の神が見ているもの、それは一人の男。
 男は自身の中にある素質を自覚しようとしている。
 その男はリックが抱いた目標に最も近い人間なのだ。

   ◆◆◆

 ディーノは槍斧を振っていた。

「……」

 無心であった。
 ディーノは淡々と槍斧を振り続けていた。
 しかしその速度は尋常ならざるものであった。
 槍斧を振るたびに、ディーノの中に走る光の線が眩く輝く。
 そして同時に激痛が走る。
 奥義による痛みだけでは無い。ディーノの傷は完治していない。
 それでもディーノは槍斧を振り続けた。
 が、しばらくして、その痛みは無視出来ないほどになった。

「……っ!」

 槍斧を振り切った姿勢でディーノの体が硬直する。
 そしてディーノの中に芽生える新たな感情。
 それは疑問。
 これは少し違う、という感覚。
 これは自分が追い求めているものでは無い、そんな気がするのだ。
 この技は長い戦いに適していない。
 だが、自分はかつて似たような感覚を抱いたまま長期戦を行った覚えがあるのだ。
 最初にそれをはっきりと感じたのは、眩い強固な防御魔法を展開する二人組みと戦った時だ。
 今の感覚は、この技の感覚は、光の壁に向かって思い切り槍斧を振り下ろした時と、長槍の男を両断した時の感覚に似ている。
 しかしいま自分が求めているのはそれでは無い。それ以外の時の感覚だ。
 霧の中を当ても無くさまようように、記憶をまさぐる。

(ええと……)

 しばらくして、ディーノはついにそれを見つけた。

(そうだ、あれだ! あの時だ!)

 それは光の壁に向かって思い切り振り下ろす前の感覚。クラウスのおっさんの奇襲を成功させるために、女の意識をこちらに釘付けにするために、光の壁に何度も槍斧を叩き付けていた時の感覚。
 見つけた光明を忘れぬうちに、槍斧を構える。

「でえや!」

 そして一閃。
 しかし失敗。得られたのは痛みのみ。

「おらぁ!」

 もう一度。
 しかし失敗。得られたのはさらに大きな痛みのみ。
 耐え難い痛みを抱えたまま再び槍斧を構える。
 これが失敗したら今日はもうあきらめよう、そんなことを考えながら無言で一閃。

「……っ!?」

 瞬間、ついにディーノはそれを見出した。
 自身の中にある痛みとは違う感覚。
 その感覚は感動に転化した。
 美しいと思ったからだ。
 自分の中に走った小さいが数え切れないほどの多くの煌き。

バージルの中に広がる夜空

 まるで体の中に天の川が流れているようだ。

(そうだ……これだ! これなんだよ! 俺はこいつのおかげで今まで生き残ってこられたんだよ!)

 この感覚を体に覚えさせなくてはならない、これをいつでもどこでも自在に使えるようにならねばならない、そう思ったディーノは再び槍斧を構えた。

 この日、ディーノは数え切れないほど槍斧を振った。痛みも忘れて。

「暴風」の異名が現実のものとなるその日は近い。

   ◆◆◆

 次の日――

 サイラスは粗末な椅子に座ってじっと考え込んでいた。
 傍にはフレディの姿がある。
 が、サイラスは彼のことが意識に全く入らないほどに集中していた。

「……」

 サイラスはヨハンに言われたことを思い出していた。

 ――

「サイラス」
「……なんだ」
「……お前のところに『使者』は来たか?」
「……」

 この期に及んでヨハンは何を言いたいのだ? そう思ったサイラスは沈黙を返した。
 間も無く、ヨハンが言葉を続けた。

「サイラス、ガストンという者のことを覚えているか?」

 これにサイラスは「ああ」と頷きを返した。
 ガストンとはカルロが守る最終防衛線に突撃し、そして散った将のことだ。
 彼のことをサイラスはその時に抱いた哀れみと共に記憶していた。
 そしてサイラスの頷きを見たヨハンは再び口を開いた。

「あの時、ガストンに勝ち目はあったと思うか?」

 サイラスは正直に答えた。

「……百回挑んだとしても、百回ともカルロが勝つだろう」

 サイラスの答えに対し、ヨハンが再び尋ねる。

「妙だと思わないか?」
「……」

 サイラスは何も言えなかった。
 妙といえば当然妙だ。だから当時、自分はヨハンに一言物申した。
 そしてそれをねじ伏せ、事を強行したのは誰でも無いヨハンではないか。
 そう思ったサイラスがそれを口にするよりも早く、ヨハンが再び声を上げた。

「……あの時、私はある商人達といくつかの約束を交わしていた」

 なんだそれは? とサイラスが尋ねるまでも無く、ヨハンはそれを声に出した。

「それはガストン達を始末するかわりに対価をもらうというものだった」

 その商人達はなぜガストンを殺したがっていたのか。
 それもヨハンは語った。

「当時、ガストン達は戦場で次々と功績を挙げていた。そしてそれは彼の発言力の増加に繋がっていた。その発言力をガストン自身は使っていなかったが、彼の背後についていたある女商人が教会に対して声を上げ始めていた」

 話を聞きながら、サイラスは事の全体像を頭の中におおざっぱに描いていた。サイラスはよくある商人達の権力闘争だと思っていた。この時は。

「商人達が目障りだったのはガストン本人では無く、彼を援助していたその女のほうだったのだ。ガストンを消すことで女から発言力を奪うという算段だった」

 そして、ヨハンはサイラスもよく知っている結果を語った。

「そして事は実行され、ガストンは死んだ」

 サイラスはここまでの話を聞いて頷きを返した。残酷だが、かけひきとしてありえる、と思ったからだ。
 が、妙な点は当然残っている。あまりにも強引すぎる下策であるという点がその一つだ。要は女商人を押さえつければいいだけの話である。そのためにガストンを殺すなどというのは、あまりにも無理矢理な手段に感じる。もっと穏やかで損失が少なく、そして証拠と禍根が残らない手がいくらでもあるはずなのだ。
 しかしヨハンはそれよりも妙なことを語り始めた。

「しかしその後、妙な事になった。まず、私が商人達と交わしていた約束の一つが破られたのだ。一度に支払われるはずであった金と奴隷兵、そして兵糧などの報酬が、複数回に分けてという形に変えられたのだ」

 それで何が困るのか、サイラスが見当をつけたその答えをヨハンはそのまま口に出した。

「これに私は怒りを返した。時間をかけて複数回では駄目なのだ。それではガストンの穴は埋まらない」

 当時あの地にはカルロを睨み、押さえつけるための戦力が集められていた。だからヨハンもいた。だが数が減ってしまうと単純にその抑止力が減る。
 しかし、ガストン達がいなくなったくらいならばまだ何とかなるはずであった。
 だから当時、サイラスはヨハン含む教会の上層部に進言していた。カルロを抑えている間に他の部隊を迂回させ、敵の首都を別方向から攻めるべきだと。
 だがその後、軍がそのように動くことは無かった。軍は愚かにもカルロと正面から対抗することになり、そしてそんなこと出来るはずも無く、戦線はされるがままに押し下げられた。
 サイラスは自分の提案は無視されたのだと、その時は単純にそう思っていた。
 それは間違いであることをヨハンは語り始めた。

「そして妙な事はそれだけでは終わらなかった。当時お前が提案した通り、我々は敵の首都を多方面から攻める作戦を立てていた。私はその作戦の参加者を決めようとした。しかし出来なかった」

 サイラスが「何故だ?」と尋ねると、ヨハンは意外な答えを返した。

「兵站が伸ばせなかったのだ」

 これにサイラスは「そんな馬鹿な」と声を上げそうになった。
 そもそもあの作戦は、カルロを奇襲するところから既に算段は整っていたのだ。もしカルロを殺し損ね、途中で戦線に復帰されても問題無い様に計算されていたのだ。

 兵站とは戦闘支援の総称である。部隊の戦闘力を維持、または向上させるための物資の補給線、駐屯し守らせるための要塞などの設備とその整備、兵の展開手段とその確保などのことだ。

 その計算の中に兵站は当然入っていた。どこに拠点を立て、どのように補給を行うのかなどに関して緻密な計算がされていたことをサイラスは十分すぎるほど知っていた。なぜなら、サイラスが作戦立案者であり、計算の一部もサイラス自身が行ったからだ。
 そしてあの作戦はかなり上手く行っていた。カルロを殺し損ねたが、復帰された時点で既に我々は敵の首都の目前までに迫っていた。
 軍の一部を迂回させ、多正面作戦を行うのも問題無かったはずだ。あともう一押しだったはずなのだ。

 サイラスはそう思った。

 しかしそれはサイラスの計算が正しかったならば、サイラスが計算に使った数字が、下から報告された値に嘘偽りが無ければ、の話なのである。

 全ての事に絶対は無い。事故か何かで事情が変わってしまうことは当然ある。しかし、サイラスはそれらも考慮してかなり余裕を持たせていた。サイラスにとってヨハンが口にしたことは信じ難いことであり、自身の能力を否定されたことによる怒りすら湧き上がる内容であった。

 そんなサイラスの気持ちを察する事無く、ヨハンは言葉を続けた。

「兵糧も何もかもがぎりぎりだった。知らぬ間に我々の兵站線は伸びきっていたのだ」
「……」

 サイラスは何も言えなかった。
 誰かが嘘をついていたということになる。兵站を管理していた者の誰かが。
 それはもしかしたら自分が信頼している人間かもしれない。自分が信じた数字は全て嘘だったかもしれないのだ。
 そしてそんな考えにサイラスがさらなる怒りを抱き始めた瞬間、ヨハンが口を開いた。

「この一連の流れに強烈な不信感を抱いた私は独自に調査を行った。兵站を管理していた人間の身辺を調べる一方で、疑惑の発端となった女商人を追った」

 女商人という単語にサイラスは意識を強く引かれた。なぜだか、女のことが気になっていた。
 そしてそれはヨハンも同じであったようだ。

「女の調査には特に力を入れた。私は女に目星をつけていた。なぜなら、女の動向に不審な点があるのを私は既に知っていたからだ。
 商人達からガストンの話を持ちかけられた際、私はまず独自の手段を取った。要は女を黙らせればいいわけだからな。
 私は私兵を使って女を捕まえようとした。しかしそれは失敗に終わった。返り討ちにされたのだ。商人にしてはやけに強いな、としか思わなかった。その時は」

 その単純な評価が間違いであったことをヨハンは語った。

「そしてガストンの死後、女の異常性は色濃くなった。姿を消したのだ」

 確かにおかしいが、一時的に姿を隠しただけという可能性が残っている。
 サイラスはそう思ったが、直後のヨハンの言葉がその可能性をとても低いものにした。

「私が兵を差し向けたから怯えて隠れたのかもしれないと、最初は思った。だが、調べていくうちにその考えは消えた」

 サイラスが「なぜだ?」と問うと、ヨハンは即答した。

「女がやっていた商売は、元々は私にガストン殺害を依頼した商人達が抱えていたものだった。要は女と商人達は繋がっていたのだ。
 この事を私が問い詰めると、調子に乗った女が歯向かい始めただけだと商人達は答えた。当然、私はその言葉を信じず、調査を進めた。
 だが、そこから大した進展は無かった。兵站の計算が誤っていた原因のいくつかは突き止めたが、それらはどれも事故なのか失敗なのか、故意なのかわからぬような些細なものを積み重ねたものばかりで、疑惑を晴らす決定打にはならなかった」

 そしてヨハンは一呼吸分間を置いた後、最も重要なことを語り始めた。

「そんな時だ。私の前に『使者』が現れたのは」

 この展開にはさすがのサイラスも黙って耳を傾ける以外に無かった。

「あれは確か三年前、ラルフを手に入れた直後くらいのことだ。その者はある夜、私の部屋に突然現れ、こう言ったよ。
『あなたにひとつ忠告をしにきたわ。戦力を温存して勝ちなさい。そして出来るならば、相手の戦力も減らさず取り込みなさい』と」

 女性の言葉遣いから、サイラスは「もしや」と思った。
 そしてヨハンも当時同じ考えを抱いたことを語った。

「私はそいつに向かって『何者だ!』と声を上げながら確信したよ。この侵入者は探していた女商人だと。女は結局最後まで名乗らなかったが、『あるところから来た使いの者』とだけ答えた。
 そして女は私の足元に一枚の紙切れを放り投げながら言った。『そこに書かれている連中を信じては駄目』だと。ラルフは大切に扱え、多くの者が狙っている、とも言った。そういえば、この事は誰にも話してはダメだ、もし話せば私はあなたを殺さなければならなくなる、などと釘も刺されていたな。……今から死ぬ私には関係の無いことだが」

 ヨハンは珍しい自虐的な笑みを口尻に浮かべながら、言葉を続けた。

「女はそれだけ言った後、窓から出て行った。その時に私は見たのだ」

 サイラスが「何をだ?」と尋ねると、ヨハンは答えた。

「女は屋根から屋根へ軽々と跳び移っていたのだ。それを見た私は、まるで『偉大なる一族』のようだ、と思った」

 これにサイラスの心は揺れた。
 しかしサイラスは考えようとはしなかった。
 これだけでは何も判断がつかないからだ。偉大なる一族は敵かもしれないと考えるのはあまりに早計。情報が足りない。
 サイラスは理性でこの動揺をねじ伏せた。その直後、ヨハンの口が開いた。

「しかしその後、女の消息は完全に消えてしまった。私は女の調査を一時中断し、紙に書かれていた者達の方に力を入れた。そして、私はその者達に共通点があることに気がついた。ほとんどが奴隷商人、または交易商で、全員が外界と何かしらの繋がりを持っていたのだ」

 これにサイラスの心は先とは比べ物にならないほどに揺れた。
 サイラスの思考は既に一つの答えを導き出していた。
 サイラスの心はそれに衝撃を受けたのだ。
 そして間を置かず、ヨハンの口が答え合わせを始めた。

「こいつらは商売のために戦争を引き伸ばしているのだろうかと、最初は思った。しかし、女が残した『戦力を温存しろ』という言葉が引っかかった。そして私はある事を、我が一族が魔力至上主義の道を歩み始めた理由を思い出した。
 それはいずれ来るであろう外界からの侵略に備えるためというものであった。外界の脅威を声高に叫び始めたのは盾の一族で、我が祖先はそれに乗っただけだが。
 しかしその後、長い時間が過ぎたが盾の一族の祖先が危惧したようなことは起こらなかった」

 ヨハンは何かを悟ったかのような表情で言葉を続けた。

「その過程で、盾の一族は我々から距離を取るようになった。なぜそうするようになったのかを彼らは語らなかったが、理由は察しがつく。彼らは我が祖先がやっていたことに嫌気が差したのだ。はっきり言って、我が祖先が盾の一族に協力し始めたのは大きな商売がしたかっただけだ。盾の一族が声高に叫んでいた『国を強くし、守る』などという信念めいたものは我が祖先の心には全く無かったのだ。ゆえに教会は醜いものになってしまった」

 そこまで言ってヨハンは目つきを元に戻し、サイラスと視線を合わせた。
 ヨハンは真っ直ぐな目をしていた。
 その憑き物が落ちたかのような目で、ヨハンは語った。

「……話が少しそれてしまったが、サイラス、私はこう思っているのだ。我々は既に攻撃を受けているのではないか、と。戦争を長引かせて双方を疲弊させ、全体の戦力を減らすという工作をしかけられているのではないかと。
 そう思った私は戦いから距離を置き、後進の育成とラルフの教育に力を入れるようになった。平行して戦力を手元に集めるための活動も行った」

 ヨハンが前線に全く出てこなくなった理由のひとつであった。

「偉大なる一族にちょっかいを出したのはそれが理由だ。私は偉大なる一族を手元に置こうと考え、実行した。……そして私は敗れ、こうなった」

 そこまで言ってヨハンは視線を落とし、口を閉ざした。
 全て言い終わったのだろう。

「……」

 サイラスは暫し考えた後、剣を振り上げた。
 月に照らされた剣身が青白く光る。
 瞬間、ヨハンは口を開いた。

「炎の一族と戦うことになったのも、もしかしたら……」

 その口から出てきたのは、彼の心にふと湧いた疑惑であった。

「……」

 しかしサイラスには沈黙しか返せない。わからないからだ。

 黙るサイラスに対しヨハンが再び口を開く。

「……私の話が信じられぬか? ならば後で私の別荘を調べてみるといい。女から渡された紙が書斎の机の中にある」
「……」

 これにもサイラスは何の言葉も返さなかった。

「……」

 ヨハンの口も動く気配を見せなくなった。

 しばらくして、サイラスは剣を振り下ろした。

 ――

「……」

 思い出しながら、サイラスは眉間を押さえていた。
 サイラスの頭の中では同じ言葉が何度も木霊していた。

(……どうする)

 この後どうすべきか、サイラスはそれを考え続けていた。

(ここに来て、計画を見直すはめになるとは……)

 ヨハンが残した言葉が全てを変えてしまった。

(……どうする? この後どう動けばいい?)

 教会を潰すことは決まっている。ヨハンを殺した以上、これはもう変えられない。
 問題はどう潰すかだ。
 現在の計画では完膚無きまでに叩き潰すことになっている。兵站線を寸断したと同時に、収容所を解放。奴隷達を率いて決起し、重要都市と拠点を制圧。その後、前線の部隊と交戦する計画になっている。

(……殲滅しては駄目だ。出来る限り戦力は残しておきたい。たとえ敵のものであっても)

 しかし、今から計画を大きく変えることは不可能だ。
 出来たとしても、本来攻めるはずだった箇所のいくつかを放置するくらいだろう。
 ならば、どれを選ぶか。どの部隊を、または誰を放置するか。

(……やはり、まずはラルフだろう)

 計画では暗殺が濃厚だった。兵站線を潰した後に降伏をすすめてはみるが、応じない可能性が高いからだ。
 ラルフは強い。ゆえに兵糧などの補給が途絶えたとしても、周辺の敵から略奪することが出来る。
 しかし略奪程度では大部隊を支えることは出来ない。自然と数を減らすことになる。手薄になったところを包囲して降伏をすすめ、駄目だったら殺害する、というのが現在の筋書きだ。

(……いや、駄目だ。ラルフは、カルロを倒した男はなんとしても生かしたい。なにか……なにかないのか?)

 サイラスは頭の中でラルフに関する情報と記憶の引き出しを片っ端から開けた。
 そして、ある記憶からサイラスは一つの案を思いついた。
 しかしサイラスはそれを光明だとは思わなかった。
 下策だからである。その場の感情に成功の可否が大きく左右される類のものだ。堅実とは程遠い。
 これなら今の計画のほうがマシだ、サイラスがそう思った瞬間、真の光明が彼の心に差した。

(いや、待てよ……?)

 成功率が低いのであれば高くすればいいのではないか。適当な情報を与えて反応を見るだけでも成功率を上げられる。

(……)

 歯車が嚙み合うように、サイラスの頭の中で一つの筋書きが組み上げられていった。

(確実では無いが、試す価値はある。それに……)

 同時に、失敗した場合の対処も練り上げられた。

(これならばラルフが首を縦に振らなかったとしても、その場で殺せるだろう)

 考えがある程度固まったサイラスはフレディに声をかけた。

「フレディ、あれを持ってきてくれ」

『あれ』で通じたらしく、フレディは頷きを返し、場を離れた。
 フレディはすぐに戻ってきた。
 その手には丸められた紙が握られている。
 受け取ったサイラスは念のために紙を開き、文面を確認した。
 それはガストン殺害を持ちかけられた際に、ヨハンに書かせた書類であった。
 計画ではこの書類はダメ押しに使う予定であった。
 教会への嫌悪を強くし、味方の士気を上げるのだ。そして同時に、嫌教会派であるが動かない連中、いわゆる潜在的な味方の感情を煽り、掘り出すことに使う予定だった。
 しかしたった今別の使い方が決まった。これを使えば確実性を上げられるだろう。
 頭の中で準備が整ったサイラスは口を開いた。

「フレディ」
「へい」
「始めるぞ。行動開始だ」

   ◆◆◆

 半月後――

 ヨハンが死んだ可能性が高い、という情報がある者の耳に届いた。

シャロンイメージ

 それはあの女。
 前と同じ場所でその報告を聞いた女は、口を開いた。

「そう……ヨハンは逆に倒されてしまったのね」

 その目は報告者の方には向けられていない。
 女は窓の外を見ながら、再び口を開いた。

「しかしさすがというべきかしら。伝説の血はまだその力を失ってはいなかったのね」

 これに報告した男はどう反応すればいいのか分からなかった。ゆえに沈黙を返すしか無かった。
 そんな男に、女は視線を向けながら口を開いた。

「ご苦労様。今後はサイラスの監視をお願い」

 これに男は頷きを返した後、部屋から出て行った。

「……」

 女は視線を窓のほうに戻し、これから起きるであろう事に意識を傾けた。
 忙しくなるだろうな、と女は考えていた。
 比喩で無く、事が動き出した事を女は感じ取っていたのだ。

 その影響は前線に見える形で現れ始めていた。
 兵糧の輸送が停止しつつあったのだ。

   第三十五話 悪魔の天秤 に続く
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ジャンル : 小説・文学

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