話せない9

犬さん

俺は犬だ。

この世には喋れる動物が数多くいるが、俺は喋れない。
「ワン」か「バウ」くらいしか言えない。

だが、考えることは出来る。人間のように。
俺の飼い主がそれに気づいているかどうかはわからないが。

犬「~~♪」

俺は外を散歩していた。

ご主人様はいない。俺だけだ。
俺は一匹で家を出てきたのだ。

俺は自力でドアを開けることが出来る。鍵だって外せる。
このように、出ようと思えばいつでも出られるのだ。

この開放感。素晴らしい。自由とはこういうことなのだ。

もちろん、ご主人様が心配しないうちに帰るつもりだ。
日が暮れる前に戻れば問題無いだろう。

さて、どうしようか。

とりあえず天気が良いし、いつもの公園で日向ぼっこでもしよう。

   ◆◆◆

公園には先客がいた。

猫

猫「あ」
犬「あ」

目と目があった瞬間、猫は走り出し、木の上に登った。
俺はそのその慌しい様子を冷めた目で見つめた後、ため息混じりに口を開いた。

犬「ワォ~ン(なんだ猫か)」
猫「ニャア?(え? 襲い掛かってこないの?)」
犬「バウ(今日の俺は心が広いのだ。そんな気にはなれん)」
猫「……ニャオン(ふーん)」

理解した風な口を利いたが、猫は木の上から降りてこなかった。
俺を警戒しているのだろう、そう思えた。この時は。

犬「バウバウ(じゃあ俺はそこの芝生で一眠りさせてもらうから、邪魔しないでくれよ)」
猫「ニャア(あ、うん)」

   ◆◆◆

一時間後――

猫「なあなあ、ちょっとちょっと」
犬「ぐうぐう(寝)」
猫「なあなあなあなあなあ」
犬「……うるさいなあ、なんか用か?」
猫「ちょっと頼みがあるんやけど」
犬「なに?」
猫「そこに植木職人が忘れて置いていったはしごがあるやろ?」
犬「あるな」
猫「それをこっちまで持ってきてくれんかな?」
犬「え、なんで?」
猫「え? なんでって、そりゃあ……」
犬「え? まさか、怖くて降りられへんの?」
猫「いや、そんなことないけど」
犬「え? じゃあなんで?」
猫「いや……なんとなく、はしご使ってみたいなあって思って」
犬「めんどくさいわ、自分でやれや。じゃあおやすみ」
猫「待って待って待って聞いて」
犬「なんやねん。自分、やっぱり怖くて降りられないだけやろ?」
猫「いや、そうじゃないよ」
犬「じゃあどういうことなんや」
猫「……うーん、一言で説明するのは難しいんやけど」
犬「はしご使うのに難しい理由があんのか!?」
猫「……うーん、そう、おおざっぱに言えば、哲学的理由、かな」
犬「哲学!? はしごに哲学が関係すんの!?」
猫「そうや」
犬「どういうことや」
猫「考えたことは無いか? 何故はしごはそこにあるのか、とか、はしごが存在する意味とはなんなのか、とか」
犬「いや、全然考えたことないし、考える必要性も全く感じられん」
猫「俺が今はしごを使わなければ、彼の存在理由は、価値は泡沫と消えてしまうのではないか! そういう風に考えたことは無いか!?」
犬「全然無いし、どうでもいい。じゃあおやすみ」
猫「待って待って待って聞いて!」
犬「なんやねん! 自分、やっぱり怖くて降りられないだけやろ!?」
猫「いや、そうじゃないよ」
犬「じゃあどういうことなんや」
猫「……うーん、一言で説明するのは難しいんやけど」
犬「早く言え」
猫「……うーん、そう、おおざっぱに言えば、宗教的理由、かな」
犬「宗教!? はしごに宗教が関係すんの!?」
猫「そうや」
犬「どういうことや」
猫「宗教的理由から俺は今はしごを使わなければならないのだ」
犬「だからその理由はなんや」
猫「……えー、宗教に理由がいる?」
犬「いや、いるやろ」
猫「……あー、えーと、ああ、そう、あれ、あれや」
犬「あれってなんや」
猫「愛や」
犬「愛?」
猫「そうや愛や。愛のために俺ははしごを使わなければならないのだ」
犬「……」
猫「……」
犬「それ言い訳にしても苦しくない?」
猫「やっぱりそう思う?」
犬「じゃあおやすみ」
猫「待って待って待って聞いて!」

こんなやり取りを三回ほど繰り返した後、
犬はしょうがなく猫のためにはしごを持っていってやった。
(ちなみに最後の言い訳は『ばあちゃんの遺言』だった)
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

No title

ありそうありそう。笑っちゃいました。

Re: No title

> ありそうありそう。笑っちゃいました。

ありがとうございます
プロフィール

稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

アクセスカウンター
(14/01/05設置 ユニーク数)
カテゴリ
最新記事
フリーエリア
17/02/27