九十九神7

長く使われた物には命が宿る、という話を聞いた事はあるだろうか。
そのようなものを九十九神と呼ぶらしい。

もし、それが本当だとして――
意思を持った彼らはどのようなことを考えるのだろうか?

それでは、これから彼らの生活を覗いてみよう。

   ◆◆◆

車

俺は車だ。
人を乗せ、運ぶ。それだけの道具だ。

今から、そんな俺が歩んだ一生を語る。

初めに言っておく。
この話は面白くない。
ただの車の話が面白いわけがないのだ。

   ◆◆◆

俺は平和な国で生を受けた。

そしてある人間に買われた。

それから毎朝と夕、俺は男を会社へ、そして自宅へと運んだ。

それは退屈であったが穏やかであった。

だが、そんな単調な生活はある日終わりを迎えた。

俺のエンジンの調子が悪くなってしまったのだ。

それが原因で俺の主人は会社に遅刻するようになった。

それは許されないことだったらしい。時間にとても厳しい社会だったのだ。

そして俺は捨てられた。直すよりも買い換えた方が安いからだ。

   ◆◆◆

だが、俺の一生はまだ終わってはいなかった。

所有者を転々とし、海を渡り、俺はある国に辿りついた。

そして俺は新たな男に買われた。

俺のエンジンの調子は悪いままであったが、男はそれに文句を言わなかった。

時間にルーズであっても許される国だったからだ。
公的な交通機関でさえ、時間をろくに守らない、いや、守れないのだ。

その国はエネルギーに溢れていて、そして危険が満ちていた。

その国は不安定だった。政権が二転三転し、戦争まがいの事があちこちで起きていた。

だが、そんな時勢でも、新たなご主人様は俺を可愛がってくれた。
ある日「とても良い買い物をした」と言ってくれた。うれしかった。

生活は過酷であったが、俺は満たされていた。

だが、そんな生活もとうとう限界を迎えた。

ある日、我が主は家族を連れて国を出ることを決断した。

飛行機や船に乗る金は無い。必然的に移動手段は車、すなわち俺だ。

車での国境越え、それはとても危険な行為であった。
見つかれば問答無用で銃撃されるのだ。

それでも我が主は考えを改めなかった。

そして決行の当日、主は車の中で家族にこう言った。

「きっと何事も無く国境を越えることが出来る。神がお許しくだされば」

上手い言い回しだな、と俺は思った。
とても分の悪い危険な賭けであることは明らかなのに、あきらめと覚悟が混じったようなものが生まれる。
後は祈るのみだ。

   ◆◆◆

夜の闇の中、俺達は祈りを捧げながら走った。

だが、その祈りは届かなかった。

国境まであと少し、というところで銃撃を受けた。

俺の体はあっという間に穴だらけになった。

タイヤがパンクし、制御を失った俺は崖下に転落した。

顔面から地面に激突し、体がひしゃげる。

しかし幸いなことに、搭乗者は、俺のご主人様達は無事だった。

ご主人様達は歪んだドアを蹴り開け、夜の闇の中へと走り去っていった。

……以上で俺の話は終わりだ。

え? その家族はどうなったのかって?

……それは知らない。俺の意識はそこで終わったから。

……え? 持ち主にもう一度会いたいかって?

……そんなこと、聞くまでもないだろう。俺は大事にされていた。愛されていたのだから。
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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稲田 新太郎

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