話せない7

犬さん

俺は犬だ。

この世には喋れる動物が数多くいるが、俺は喋れない。
「ワン」か「バウ」くらいしか言えない。

だが、考えることは出来る。人間のように。
俺の飼い主がそれに気づいているかどうかはわからないが。

犬「……」

涼しくなってきた残暑の夜、俺はご主人様の背中を眺めていた。

娘「……」 カタカタ

最近、ご主人様が冷たい。

犬「……」

娘「……」 カチカチ

『ぱそこん』とかいう物ばかり触って、全然かまってくれない。

犬 <●> <●> じーーーーー…

娘(背中にすごい視線を感じる……)

遊んでほしい。ナデナデしてほしい。

犬(……よし、やるか)

俺は待つオスでは無い。
上を向いて口を開け雨を待つような、そんな受身な行為は性に合わないのだ。
自慢じゃないが、生まれてこのかた、『待て』という命令にちゃんと従ったことなど一度も無い。

俺は早速欲求を満たすために行動を起こすことにした。

だが、やりすぎは駄目だ。それでご主人様の機嫌を損ねてしまっては本末転倒というもの。

犬(そう、さりげなくだ。あくまでもさりげなく――)

初手は近付きすぎず、遠すぎず――そう、「間合い」が大事だ。
相手のパーソナルスペースを尊重した立ち回りが求められるのだ。

犬「……」

犬は何も言わず、ゆっくりと立ち上がり――

娘「……」

娘の目の前に、パソコンへの視界を遮るように、彼女の膝の上に座った。

娘(……画面がまったく見えない)

娘の表情に怒りの色が表れる。

犬(しまった! 踏み込みすぎたか!?)

いや、時には豪快さも必要だ。そして今はその時なのだ。たぶん。犬はそう思うことにした。

犬(ええい、ままよ! このままいくしかない!)

こうなったら攻めるのみ! まずはこれ!

犬「キュゥ~ン、キュゥ~~~ン」(うるうる)

48の必殺技の一つ! 目を潤ませながら甘い声でおねだり!

娘「……」

娘の顔から怒りの色が消える。

犬(相手の気が緩んだ! ここだ! ここで畳み掛けるんだ!)

犬は娘の膝の上で腹を見せるように寝転がった。

犬「キュゥ~ン、キュゥ~~~ン」(うるうる)

娘「……」

犬「キュゥ~ン、キュゥ~~~ン」(うるうる)

娘「……もう~。しょうがないな~」

口ではめんどくさいと言いつつも、娘は笑みを浮かべながら丁寧に犬の腹をなでた。

犬(ヒャッホォォォォォォォォォォウ!!)

言葉は通じずとも、それなりに気は合っている一人と一匹であった。
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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稲田 新太郎

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