話せない5

犬さん

俺は犬だ。

この世には人語を喋れる動物が数多くいるが、俺は喋れない。
「ワン」か「バウ」くらいしか言えない。

だが、考えることは出来る。人間のように。
俺の飼い主がそれに気づいているかどうかはわからないが。
 
今、俺は留守番をしている。

どうやらご主人様達は遅くまで帰ってこないようだ。

背伸びをしながらあくびをする。

さーて、何をしようか。
とりあえず腹が減ったな。

目の前に山盛りのドッグフードがある。

しかし、俺はこれを当然のようにスルーし、台所に向かう。

食器入れの下にある棚の取っ手に前足をかける。

カチャリ

観音開き式であるため、犬の俺でも簡単に開けることが出来る。

そして、そこにあるのは大量のお菓子。
ここは家族共有のお菓子保管スペースなのだ。

さーて、何食べよっかなー。

何でも食べることは出来ない。
家族共有のお菓子だと言っても、その中に俺は含まれてはいない。

だから、食べてもバレないものを選ぶのだ。

犬(まあ……無難にこの辺りか)

ポテトチップス

ポテトチップス。
安牌である。単純に容量(枚数)が多いため、ちょっとつまみ食いしたくらいでバレることはありえない。
家族全員が手をつけるお菓子である、というところも重要だ。
たとえ内容量が減っていることに気づかれても、
「自分以外の誰かが食べたのかな?」
と思われるだけだからだ。

犬「~♪」

俺は戦利品をくわえて、テレビの前に座った。

犬(なんか面白い番組やってるかなー)

リモコンを操作して、チャンネルを回す。

犬(主婦向けのドラマばっかりやなー。まあ昼過ぎやし、しょうがないか)

お菓子をむさぼりながら、TVをぼーっと眺める。

犬(……喉が渇いたな)

ドッグフードの真横に水を張った洗面器が置かれている。

しかし、俺はこれを当然のようにスルーし、台所に向かう。

奥にある冷蔵庫の取っ手に前足をかけ、引っ張る。

カチャリ

犬(……缶ジュースは一本だけか)

俺は取り出した缶ジュースを前足で挟み込むように持ちながら、タブに歯を立てた。

プシュ

開封完了。もう慣れたものだ。

俺は缶をくわえたまま上を向き、内容物を喉に流し込んだ。

ゴクゴクゴク

犬(……ぷっはぁ~~~)

スッキリ爽快! 最高や!

犬(……まだちょっと飲み足りないなー)

しかし、ジュースはもうない。

飲み物はある。しかし……それはお酒なのだ。

犬(……)

アルコールは飲んだことが無い。
飼い主である娘はマズいと言っていたが、父親は旨そうに呑んでいる。

犬(……)

何事も初めてはある。
今日がその日というだけだ。
俺は缶に前足を伸ばした。

   ◆◆◆

犬「……ヒック」

あれ~。俺、何してたんだっけ?
だめだ。思い出せない。

うーん、おしっこしたい。トイレトイレ。

あれー? トイレどこだっけ。
まあいっか。ここでしちゃお。

犬(……) ブルルッ

はあ~スッキリ。
スッキリしたら、また呑みたくなっちゃったなあ~。

プシュ ゴクゴクゴク

犬(ぷはあ~。最高やな!)

なんか食おう。冷蔵庫の中を物色!

ガサガサゴソゴソ

?「……ちょっとあんた、なにしてんの?」

突如背後から聞こえてきた声に犬が振り返ると、

犬(あ、やばい)

そこには青筋を浮かべて仁王立ちする娘の姿があった。


その後、犬は滅茶苦茶に怒られたのだが、酩酊状態だったため何を言われたのかまったく覚えていないのであった。
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テーマ : オリジナル小説
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稲田 新太郎

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