九十九神5

長く使われた物には命が宿る、という話を聞いた事はあるだろうか。
そのようなものを九十九神と呼ぶらしい。

もし、それが本当だとして――
意思を持った彼らはどのようなことを考えるのだろうか?

それでは、これから彼らの生活を覗いてみよう。
 
   ◆◆◆

湯呑み

私は湯呑みだ。何の特徴も無いただの湯呑み。

だが、人間達はそう思っていないようだ。

人間達は私に途方も無い価値をつけている。
なんでも私は名のある者の作品だそうだ。
ゆえに私は美術館というところに置かれている。

ここは退屈だ。誰とも話せず――いや、話すことができる相手、自分と同じ九十九神はこの美術館には数多くいる。いるのだが、話す気が起きない。

その理由は――おっと、お客さんのようだ。

私の前で立ち止まった紳士は、じろじろと、嘗め回すように私を見始めた。

嫌じゃないのかって? とっくに慣れたさ。それにこれはしょうがない。これが私の今の仕事のようなものだ。

「チッ」

その時、舌打ちの音が耳に入った。
目の前にいる紳士が発したものでは無い。これは――

「見る目がないなあ。そいつのどこがいいんだか」

二つ隣にいる九十九神、自分と同じ湯呑みが発したものだ。
彼の前で立ち止まる人間は少ない。ゆえに嫉妬しているのだろう。

我々の声は人間達には聞こえない。だからか、その湯呑みは嫉妬を隠そうともせず吐き続ける。

「お前は場違いなんだよ。この美術館にはふさわしくない。どうして人間達はそれがわからないんだか」

本当にどうしてだろうな。人間達の価値観はよくわからない。

「お前は500円がお似合いなんだよ。値札でもつけてみたらどうだ?」

500円――
そう、これが私に最初につけられた値段である。

あの日のことは今でもよく覚えている。

ここに来る前、私はある家庭で湯呑みとして使われていた。

私はその家が好きだった。穏やかで、なにより大事に扱ってくれているのが感じられたからだ。

だがある日――
何があったのかはよく知らない。分かっていることは金が必要になったっていうことだ。

そして私は売られることになった。
その時につけられた値段が500円だ。

当時はその家族のことをとても恨んだものだ。

今は怒りも何も無い。
そしてふと思うことがある。
あの家族は元気にしているのだろうか? と。

私を売って得たお金は、500円は足しになったのだろうか。
足しになったのなら、それでいい。

いや、違うな。分かってる。美化しすぎだ。こんな風に考えられるのは今の私に余裕があるからだ。
私は売られた。事実はそれだけなのだ。許せないと思うのが普通だろう。
もし、私が500円のままだったら、あの家族に対して呪詛を吐き続けていたに違いない。

……さもしいな、私は。

だから私はこう答えるのだ。

「ああ、確かに私には500円がお似合いだ」と。
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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