魚と針5

魚「あ~、腹減ったな~」

魚「さっさといつもの餌場に行こう」

魚「ん?」

その時、魚は海中に泳ぐミミズのようなものを見つけた。

魚「お? 何これ、うまそうじゃん」

魚「それじゃあ、いただきま――」

魚「ん? ちょっと待って」

魚「これ、なんか怪しいな」

魚「なーんか、動きが不自然というか」

よく見ると、針のようなものが見える。

釣り針

魚「……」

魚「やべー、これあれじゃん、釣りってやつじゃん」

魚「もう少しで引っかかるところやったわ」

魚「危ない危ない……」

魚は額の汗をぬぐう仕草をしながら、その場を通り過ぎた。
 
   ◆◆◆

一時間後――

魚「ふう満腹満腹。やっぱあそこのプランクトン、サイコーやわ」

ご満悦の魚が来た道を戻っていると……

魚「ん?」

釣り針

遠くに、あの釣り針がぶら下がっているのが見えた。

魚「……まだあるよ。辛抱強い釣り人やな」

まあ、どうでもいいか。そう思った魚が場を立ち去ろうとした、その時。

魚「……ん?」

ふと視界の隅に入った顔見知りに、魚は足を止めた。

魚「……あいつ、浩二か?」

浩二と呼ばれた魚は、こちらには気付かず、ふらふらと釣り針のほうに近寄っていった。

魚「あいつなにしてんねん。まさか、食うつもりか?」

魚は遠目からその知り合いの動きを観察することにした。

その魚、浩二はゆっくりと近づいた後、ぴたりと、針の前で足を止めた。

魚「お、気付いたか。どう見ても怪しいもんな」

浩二は釣り針の先にあるミミズのようなものを暫し凝視した後、何かを気にするようにキョロキョロと周囲を見回し始めた。

魚「いや違う、あいつ多分気付いてないわ。ていうか、なんで周囲を警戒してんねん」

周囲に人影が無い事を確認した浩二は、照れくさそうに頭を掻いた。

魚「なんやねん。何を恥ずかしがっとんねん。人に食事を見られるのが嫌なんか?」

そして、浩二はミミズに向かってゆっくりと口を近づけた。

魚「あ、食べちゃうのか?」

しかしその時、のたうちまわったミミズが「ぺちり」と、浩二の頬を打った。

浩二「!!!」

浩二は「びくっ」と身を震わせながら、素早く数歩後ろに下がった。

魚「びびりすぎやろ」

思わぬ反撃に慎重になったのか、浩二はミミズから一定の距離を保ったまま、その周囲をぐるぐると回り始めた。

魚「あー、なんか見ててイライラする」

そして三週ほど回った後、ようやく落ち着いたのか、浩二は再びミミズに近付いた。

ミミズに向かって大きく口を開ける。

魚「お、今度こそいくのか?」

だがまたしてもそうはならなかった。浩二は直前で口を引っ込めてしまった。

魚「なんやねん」

一体何を気にして――そう思った魚が別の場所に視線を移すと、そこには一匹の蟹がいた。

蟹「カニカニ」

通りすがりの蟹は、はさみをチャキチャキと鳴らしながら、浩二の方へと近づいてきた。

一方、その浩二は蟹に対して背を向け、携帯をいじっていた。

それはミミズと蟹のことなど眼中に無いかのような態度であった。

魚「なんなんや、その『僕はたまたまここにいるだけです』みたいな、『ミミズのことなんて気にしてません』みたいな素振りは」

蟹はそのまま浩二の横を通り過ぎていくかと思われたが、

蟹「カニ?」

蟹はミミズの前で足を止めた。

浩二「!」

浩二の顔に焦りが浮かぶ。

しかし振り向かない。顔はあくまで携帯の方に向けたままだ。

だが、携帯をいじっていた指(ヒレ?)は止まっており、眼球は時々蟹の方へ向けられていた。

魚「めっちゃ気にしてる! 蟹のことめっちゃ気にしてる!」

蟹がミミズに向けてゆっくりとはさみを伸ばす。

「あ」とでも言うかのように、浩二の口が半開きになる。

止めなければ食われる。声をかけるべきだ。しかし、浩二はそうしなかった。

魚「なんか言えや! どんだけ小心者なんだよ!」

蟹のはさみの先端がミミズに触れる。

浩二「!!!!」

だが、蟹の動きはそこで止まった。

蟹「……」

蟹は暫しミミズを睨んだ後、はさみを引っ込めた。

魚「お、蟹はこれが釣りやということに気づいたか」

そして、蟹はそのまま横移動をして場から去っていった。

浩二「……」

浩二はその背を見送った後、

浩二「チッ」

舌打ちした。

魚「なんで切れてんねん?!」

浩二は「やれやれ」というような表情でミミズの方へ向き直った。

そして、ゆっくりと口を近付け――

   ◆◆◆

焼きホッケ

ホッケ崎 浩二 享年2歳
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テーマ : オリジナル小説
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No title

あははは。最後が大好き。

Re: No title

> あははは。最後が大好き。

ありがとうございます
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稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

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