話せない

犬さん

俺は犬だ。

この世には喋れる動物が数多くいるが、俺は喋れない。
「ワン」か「バウ」くらいしか言えない。

だが、考えることは出来る。人間のように。
俺の飼い主がそれに気づいているかどうかはわからないが。

おっと、何やらご主人様達が居間に集まって話しているぞ。
ちょっと聞き耳を立ててみよう。

親父「んで、どこにするか決めたか?」
おかん「あたしは温泉がええなあ」
娘「ネズミの王国がいい!」

温泉? ネズミの王国? 何の話や?

親父「温泉かあー。ええなあー」
娘「ダメダメ! ディズニーがいい! ディズニー!」
親父「まあ、連休はまだ先やし。ゆっくり考えればええやろ」

連休? ああ、旅行の計画を立ててるのか。

親父「まあどこに行くかは後で決めるとして、問題は旅行の間、あれをどうするかやな」

そう言って親父は俺のほうを見た。

おかん「うーん、困ったわねえ」

え? ちょっと待って。俺は旅行のメンバーに入って無いの?

親父「親戚か知り合いに預かってもらうか?」
おかん「いやー、それがねえ、一通り聞いてみたんやけど、他の人達もみんな旅行に行くみたいでねえ」

よし! 流れ来てる! 俺も連れていけ!

おかん「もう、しょうがないから、家に置いておけばいいんじゃないの?」

なにいうとんねん、このババア!!

親父「まあ、しょうがないな、そうするか」

待て待て待て待て待て。なにがしょうがないねん! このくそジジイ!

娘「いい子でお留守番してるんやでー?」

お前もなにいうとんねん! 噛むぞ、コラァ!

親父「まあ、トイレも一人で出来るし、エサを一杯置いていけば大丈夫やろ」

あかん! まずい! このままやと置いていかれる!
何とかして俺も行きたいということを伝えなくては!

犬「ワンワン!」
親父「お、なんや嬉しそうやな」

どこが嬉しそうやねん! 殺すぞ!

犬「バウバウ!!」
おかん「これだけ元気なら大丈夫そうやな」

あかん! 吼えるだけでは全然伝わらへん!

何か無いか……考えろ俺……そうや! ボディアクションや!
身振り手振りで意思を伝えるんや!

いや、待てよ……「俺も行きたい」ってどうやって体で意思表示するんや。
まあええわ、適当にやってみよ。

犬は後ろ足で立ち上がりながら前足を振った。

おかん「あら、かわいい。チンチンやないの。こんな芸教えてないのに」

チンチンじゃ無いわ、ボケ!

あかん! 一回座って落ちつこう!

親父「おお、綺麗におすわりして、かわええのう」
娘「すごい尻尾振ってるー」

え? 尻尾?

首を捻って確認する。

うわ! ほんまや! めっちゃ振ってる! ワイ、めっちゃ尻尾振ってる!

娘「喜んでるのかな?」

喜んでないわ! 焦ってるねん!
感情の高ぶりが尻尾に現れてるだけじゃ!

くそ、この尻尾、止まれ!

体を捻り、尻尾に向かって首を伸ばす。

だが届くわけが無い。
俺は自分の尻尾を追いかけて、その場でグルグルと回った。

娘「きゃー、めっちゃ可愛い。写真撮っとこ」

……

結局その日、俺の残留が決定した。
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テーマ : オリジナル小説
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稲田 新太郎

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