陸上部

動物の顔は人間からは見分けがつきにくい。
だから一つの部活に同じ動物が集中すると困ったことになる。
こんな風に……

陸上部

ドドドドドドドド

顧問「……」

俺は陸上部の顧問だ。
今、眼前にあるトラックの上を部員達が走っている。
ただの牛のレースにしか見えないが、これはれっきとした部活動だ。
 
そろそろ部員達が帰ってくる。俺はストップウォッチを握り締めた。

顧問「……43秒18! 43秒29! 43秒45! 43秒――」

ストップウォッチを押しながら、早口でタイムを伝える。
タイムなら後で各人に教えればいいじゃないかって? それが出来ないからこうしてるんだ。

顧問「……47秒60!」

最後の一人の計測が終わる。これで今日の部活は終わりだ。適当に終了を伝えて帰ろう。

顧問「……よーし、これで今日の部活は 部員「先生、ちょっといいですか?」

割り込んできた部員の声に俺は少し苛立ちを覚えながらも、丁寧に対応した。

顧問「何の用だ。 ……えーと」

こいつ誰だっけ。

部員「僕のタイム、もう一回言ってくれませんか? 聞き逃しちゃって」

だからそれはできねえんだって。お前が誰か分からないんだから。ちゃんと聞いといてくれよ。
俺はそう思ったが、大人の対応を見せた。

顧問「あー、ちょっと待てよ。お前、何番目にゴールした?」

部員「5番目です」

5位か。ストップウォッチを操作して履歴を見る。

顧問「ええとな、43秒―― 部員「あ、すいません6番目だったかも」

イラッ

顧問「6位だな。44秒―― 部員「あ、いや、違うな。7番目だったような……」

イラッッ

顧問「7位だな。44秒―― 部員「んー。やっぱ7番目も違うような……」

イラッッッ

部員「僕、何番目でしたっけ? 先生、覚えてません?」

イラッッッッ あーもう、激おこ寸前だよ。

顧問「俺も覚えてない。もういいから、帰れ」

部員は「はーい」と間延びした返事をしながら帰っていった。

顧問「あー、やっと終わった。ほんまだるいわ。早く帰 部員B「先生、ちょっといいですか」

なんなんだよもう。帰らせてくれよ。

顧問「なんだ?」
部員B「今日の僕の走り、どうでした?」

分かるわけない。走り以前に、お前誰だよ。

部員B「大会が近いですから。先生の意見が聞いておきたくて」

うわー、そんな台詞やめてほしいわ。プレッシャーやん。下手なこと言えんやん。
まあでも、こんな事聞いてくるんやから、タイムは良いってことだろう。それなら、当たり障りの無いことを言っておけば大丈夫か。

顧問「ああ、うん。良かったと思うで。特に気になることは無かったなあ」

これはいくらなんでも適当すぎたか?

部員B「マジですか? この前先生に言われたとおり、後ろ足を意識したんですけど、ちゃんと出来てました?」

俺、そんなこと言ったことあったっけ?

顧問「あー、うん、うん。後ろ足ね。出来てたと思うよ」

部員B「マジですか!?」

顧問「うん、うん」

部員B「うわー嬉しいなー。僕、今日のタイムビリだったんですけど、期待していいんですかね?」

顧問「ビリってお前、後ろ足がどうとかいう以前の問題やろ……帰れ」

この時、ようやくからかわれていることに気づいた顧問であった。
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テーマ : オリジナル小説
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稲田 新太郎

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