シヴァリー 第五話

   ◆◆◆

  光る剣

   ◆◆◆

 その頃、陣中ではアンナの施術が行われていた。

「もっと肩をしっかり抑えろ! 暴れさせるな!」

 そこは修羅場と化していた。医者の怒号と、アンナの苦痛に歪んだ悲鳴が飛び交っていた。
 まだ医療が発達していない時代である。施術は麻酔無しで行われていた。
 アンナは両手足をベッドに縛り付けられた上に、意識を低下させる麻薬が与えられていたが、それでも施術に伴う激痛が彼女を激しく暴れさせていた。
 開放骨折の施術が麻酔無しで行われているのである。無理もなかった。

 そこへ一人の兵士が慌てた様子でやってきた。

「敵が陣に侵入した! そこら中で火を点けてまわってる! ここもすぐ危なくなるぞ!」
「今はまだ動かせん! もう少し時間を稼いでくれ! 手の空いている者は消火に向かえ!」

 数名の者が消火桶を持って外に出たのと入れ替わりに、今度は別の兵士が血相を変えて入ってきた。

「施術長!」
「今度は何だ! 今は手が放せん!」
「隣のテントで寝かせていたアラン様の姿が見えません!」
「何!?」

 施術長はしまったと思った。アラン様も縛り付けておくべきだったと、後悔した。

「アラン様にもアンナ様と同じ薬を飲ませてある! 動けたとしてもそう遠くには行っていないはずだ! すぐに捜せ!」
   ◆◆◆

 アランは朦朧とした意識で陣中をふらふらと彷徨(さまよ)っていた。

(俺は一体どうし……いや、今何をしているんだ?)

 アランは自分が何故ここにいて、何をしているのかわかっていなかった。

(これは夢か?)

 アランの感覚は夢を見ている時のそれに近いものだった。
 おぼろげにではあるが、アランの目は炎を写し、耳は怒声を拾っていた。

(ここは戦場なのか?)

 炎と怒声が戦場というイメージをアランに連想させていた。

(戦場……俺は戦場で何かをしていたはずだ)

 戦場という単語はアランの脳内である記憶を引き出した。

(そうだ……アンナを、アンナを守らなくては!)

 アランの思考がアンナのことで埋まった時、アランの目にこちらに向かってくる人影が写った。

(あれは敵か? 敵は倒さなくては……)

 アランは無意識に傍に転がっていた魔法使いの死体から、剣を拾い上げた。
 それは細身の片刃剣であった。儀式または礼装用のものであり、真っ直ぐな刀身が美しいが、実戦闘に耐える作りには見えなかった。元の持ち主であった魔法使いも戦闘でこれを使ったことは無かったであろう。
 そして、いまアランの前に立っていた敵もまた魔法使いであった。魔法使いはアランのおかしな様子を訝(いぶか)りつつも、光弾をアランに向けて放った。

 迫る光弾。しかし、アランは剣を構えもせず、その光弾を呆然と眺めていた。

(あれはなんだ? 光が近づいてくる)

 迫り来る光弾はアランには「光の壁」に見えた。そのイメージはアランに様々な記憶を呼び起こさせた。
 吹き飛ばされる仲間たち、迫る光の壁、そして地に付しアンナを抱きしめる自分、様々な記憶が次々と頭の中で再生され、ごちゃ混ぜになった。

(アンナを守らなくては、光の壁を止めなくては!)

 アランは身構え、迫り来る光に向かって剣を放った。

   ◆◆◆

 一方、ディーノもまた燃える陣の中にあった。
 ディーノは侵入した敵を倒しつつ、ある者を捜していた。

「くそ、どこだアラン!」

 敵が外壁から侵入したのを見たディーノは、アランとアンナを守るため陣中の防衛にまわっていた。
 そしてある兵士からアランの行方がわからなくなったことを聞いたディーノは、こうしてアランを探し回っていた。
 もしかしたらもう殺されてしまったのではないか――そんな不吉な考えを抱きながらディーノは捜索を続けた。
 そして遂にディーノはよく見知った後姿を見つけた。
 あれは間違いなくアランだ。しかしディーノの心中は先程のものとはまた違う不吉な感覚に支配されていた。
 その光景は異常だった。どこか力なくふらふらしているアラン、そして何より恐ろしいのはその足元に転がっている数人の死体だ。
 どいつもこいつも体をきれいに寸断されている。しかしアランの手にある獲物は頼りなさそうな細身の剣だ。一体どうやったのか?

「おい、アラ……」

 ディーノは友の名を最後まで呼べなかった。ディーノが口を塞いだのは、振り返ったアランの目つきに恐怖したからだ。その目は明らかに正気では無く、強い敵意を湛(たた)えていた。
 ディーノは静かに油断なく戦闘態勢をとった。思えばアラン相手に恐怖したのはこれが初めてかもしれない。
 拳骨を叩き込んで大人しくさせようとディーノは考えていたが、先手を仕掛ける勇気は無かった。
 アランの足元の死体を見る限りに、死因は間違いなく斬撃だろう。ならば警戒すべきはあの手に握られている細剣のみ。頼りない見た目に反してすさまじい切れ味を持っているのかもしれない。
 そう考えているうちにアランが剣を構えこちらに踏み込んできた。
 ディーノはアランの攻撃の初動を見てから後ろに跳躍した。しかしアランの踏み込みはディーノの予想よりも短いものだった。明らかにアランの細剣が届く間合いではなかったが、アランはそのまま剣を横に振りぬいた。
 しかしそのときアランの剣が眩く光り、同時にディーノの胸に激痛が走った。

(斬られた!?)

 ディーノの胸に走った鋭い痛みは明らかに斬撃によるものだった。

「くそったれ!」

 得体の知れない攻撃に、ディーノは予定を変更した。

(拳骨を当てに行く余裕なんてねえ!)

 ディーノは槍斧を少し持ち直し、刃の部分を当てないように注意しながらアランに向けて一閃した。

「アラン、すまん!」

 謝罪の言葉とともに放たれたディーノの峰打ちは綺麗に決まった。地に伏したアランはそのままぴくりとも動かなくなった。

(しまった、加減を間違えたか?!)

 ディーノは動かなくなったアランに慎重に近づき、安否を確認した。
 幸いなことにアランは気絶しているだけであった。親友の無事にディーノは胸をなでおろした。
 ディーノはアランを安全なところへ運ぼうとしたが、ふと目に入った細剣のことが気になり、手にとって調べてみた。

「剣自体には特に変わったところは無いな」

 ディーノはそこら辺にあるもので適当に試し切りをしてみた。すると意外なことに細身のわりにしっかりとしており、十分な力強さと切れ味を有していた。
 しかしこの剣そのものに光る仕掛けがあるようには思えなかった。あれはアランの魔法によるものなのであろう。そう思ったディーノは剣を投げ捨て、アランを担ぎ上げた。

 その後、陣中の敵は掃討され戦いは終わった。サイラス軍の苛烈な攻めはレオンの陣に多大な被害を与えたが、制圧するまでには至らなかった。

   ◆◆◆

 その日の夜、目を覚ましたアランは外で一人佇んでいた。
 アランが目覚めた時には既に戦いは終わっており、隣には施術を終えたアンナが眠っていた。アンナが生きていることに安堵したアランは、こうして外に出て夜風に当たっていた。

「アラン殿、夜風は体に障るぞ」

 自分を呼ぶ声に振り返ると、そこにはレオン将軍の姿があった。

「……レオン将軍」
「先の戦いの傷は決して軽いものではないはずだ。中に入って休んだほうが良い」

 アランの体は戦闘を続けられる状態では無かった。特に足を痛めており、満足に走れなくなっているのが致命的であった。
 レオンの忠告にも拘らず、アランはそこから動く素振りを見せなかった。仕方なくレオンはそのまま会話を続けることにした。

「こんなところで何をしているんだ?」
「自分の不甲斐なさを恥じておりました」

 不甲斐ない? レオンにはアランがそう考えていることが不思議でならなかった。

「そんなことはない。よく戦っていると思うぞ」
「ありがとうございます。……ですが、親友のディーノや妹のアンナと自分をどうしても比べてしまうのです」

 ディーノ? レオンは一瞬それが誰のことだか分からなかったが、今陣中でもてはやされているあの奴隷兵のことか、と思い出した。

「あの二人は特別だ。天性の強さを持っている。強いものが戦いで多くの武功を立てるのは当たり前のことだ。それと比べて劣っていても恥ずべきことでは無い」
「それでも私は彼らのように強くなりたいのです」

 なぜアランは「武」にこだわるのか。武力だけが力では無い。カルロの息子というだけで他人には無い力を持っているというのに。そうさせるのはやはりアランが武家の嫡男だからであろうか。

 レオンはそんなことを考えたが口には出さず、ただ一言、

「もったいない」

 と、小さな声で漏らした。

 レオンはアランのことを不憫に思い、この若者を少し元気づけたいと思った。

「アラン殿、私には得意なことが二つだけあってな」
「? 二つ、ですか」

 アランはレオンの言わんとしていることが掴みかねていたが、その話に耳を傾けた。

「ひとつは乗馬。若い頃からこの平原を馬で駆け回っていてな、そのせいで父にはよく叱られていた」
「もう一つは?」

 レオンは少し間をおいた後、口を開いた。

「なんだと思う?」
「わかりません」
「答えはこれだ」

 レオンは足元にある手ごろな石を拾い上、空に向かって放り投げた。
 レオンが投げた石は陣の外壁を軽く超え、あっという間に見えなくなった。
 そして、レオンは得意気な表情を見せながらアランに答えを述べた。

「投石だよ」

 投石? アランはレオンの言葉の真意を掴みかねていた。
 不思議そうな顔をするアランに、レオンはその真意を説明した。

「アラン殿、私が今まで戦って来られたのは、この肩の力のおかげなのだ」

 言いながらレオンは再び大きく振りかぶり、今度は石ではなく光弾を空に向かって放った。
 レオンが放った光弾は勢い良く飛び、夜空に吸い込まれていった。

「ご存知のとおり、腕を振りながら魔法を放てばその勢いが魔法に乗り、射程が伸びる。これに騎馬の勢いを乗せればまた然り」

 レオンの説明にアランは黙って頷いた。

「私が今まで生き残ってこられたのは魔法の射程が長いからなのだ。敵の間合いの外から一方的に攻撃しているのだから当たり前だがな」

 レオンは少し間を置いたあと、再び口を開いた。

「アラン殿、人には得手不得手がある。他人のことなど放っておけばよい。自分がやれるだけのことをやればそれでいいのだ」

 そう言ってレオンはアランの肩を軽く叩き、その場から去っていった。

   ◆◆◆

 レオンが去った後もアランはしばらくの間その場に残った。
 アランはレオンに言われた言葉を思い返していた。

(自分のやれることをやれるだけやる、か)

 自分がやれることとはなんだろうか。得意な事と言えるのは剣術と鍛冶仕事くらいだ。
 しかし剣術だけではアンナやディーノのように戦闘で活躍できる気がしなかった。特にこの戦いで痛感したことがある。自分はディーノのようにはなれないということだ。
 ディーノは魔法こそ使えないものの、でかい、速い、強いと三拍子揃っている。レオン将軍はディーノの力を天性のものと言った。それは確かにそのとおりだと思う。ディーノの背の高さや体格の良さは、生まれ持った特別な資質と言えるものだろう。
 自分はディーノのようにはなれない。ならばディーノとは違う努力をするしかない。しかしアランには何を努力すればいいのか検討がつかないでいた。

 考えに耽るアラン。どのくらいの時間そうしているのか分からなくなった頃、よく知った声がアランの後ろから飛んできた。

「ここにいたのかアラン」

 声の主はディーノであった。

「お前、怪我だらけじゃねえか。こんなところで突っ立ってないで、ちゃんと休んでろよ」
「ディーノこそ。でもお前にそれだけの傷をつけるなんて、相当な手練がいたんだな」

 確かにこの戦いで幾つもの傷を負った。だが俺に一番大きな傷をつけたやつは――

 ディーノは我慢できなくなり、先の出来事を話すことにした。

「アラン、実はな、この胸のでかい傷をつけたのはお前なんだよ」
「え?」

 ディーノはアランが襲い掛かってきたときのことを簡単に説明した。

「ディーノ、そんなことがあったなんて、すまないが全然覚えてない」
「そうか、それはまあいいさ。ただ俺が気になってるのはお前がそのとき使った『光る剣』のことなんだよ。お前いつの間にあんな技を身につけてたんだ?」
「ディーノ、俺は『光る剣』なんてものは使えないし、知らない。そのときの事を詳しく話してくれないか」
「ああ、ええとな……お前がこう剣をビュっと振ったら、剣がピカっと光って、俺の胸をズバっとやったんだよ」

 ディーノの説明はよくわからなかったが、恐らく光魔法を用いた魔法剣だろう、とアランは考えていた。
 光魔法はこの世界ではかなり一般的な魔法である。魔法使いが放つ光弾がそれだ。防御魔法も光魔法である。
 しかしアランは光魔法を使うことができなかった。今のアランが使えるのは炎魔法だけであった。

(俺が光魔法を使ったのか……?)

 自分にはまだ可能性があるのかもしれない。アランの胸中には確かな希望が芽生えていた。

   ◆◆◆

 翌日、アランは負傷した者達を連れて城に帰ることになった。
 カミラ、そしてダグラスという二人の精鋭魔道士と激戦を繰り広げたアラン隊は、かなりの被害を負っていた。主力であるアンナは胸に重症を負い、クラウスを含む多くの兵が負傷していた。
 傷が浅く、まだ戦えるものはレオン将軍のもとに預けられることになった。そしてディーノはその残留組の一人であった。

「ディーノ、無理はするなよ」

 別れ際、アランはディーノの身を案じ、

「心配すんな、みやげ話でも期待してろ」

 ディーノはアランにいつもの軽口を返した。

   ◆◆◆

 数週間後、城に戻ったアランは父カルロの呼び出しを受け、部屋に向かった。
 そこにはカルロの前で頭を垂れるクラウスの姿があった。どうやら自分だけでなくクラウスも父の呼び出しを受けていたようだ。
 カルロは部屋に入ってきたアランのほうに目を移し、先の戦いの報告を促した。
 アランは慎重に言葉を選びつつも、偽りなく先の戦いの詳細を報告した。

「自分が至らぬばかりに、我が身だけでなくアンナにまで重症を負わせてしまいました。申し訳ありません」

 カルロはこのアランの弁に対し特に責めることなく、ただ一言、

「生きて帰って来られたのだからそれでよい」

 とだけ言った。

 アランの報告が終わったあと、カルロはクラウスの方に視線を移し問うた。

「ではクラウス、次はお前の話を聞かせてもらおう」

 クラウスは深く頭を垂れたまま口を開いた。

「主君の下を勝手に離れ、アラン様の下で力を振るっていたことについては、どんな処罰でも覚悟しております」

 アランはこのとき初めてクラウスが父直属の部下、すなわちカルロの親衛隊のひとりであることを知った。どうりで強いはずだ。
 しかしそんなことよりもアランが聞き捨てならなかったのは、クラウスの口から出た「処罰」という言葉であった。
 親衛隊の扱いは将軍ごとに異なる。規則もそれぞれ違うのだが、カルロの親衛隊の規則には「主君の命なくしてその力を振るうことを禁ず」というのがあった。
 アランは思わず声を上げた。

「父上! 全ては私の不明が原因! 処罰なら私が代わりに!」
「アラン様! 私のことなど心配なさるな。元より覚悟の上でしたので」
「クラウス殿……」

 カルロは暫し考える様子を見せたあと、ゆっくりと口を開いた。

「クラウス、そなたは今この時をもって私の親衛隊から除名する」
「父上! それはあまりに!」
「そなたには罰として今日からアランの部下として働いてもらう」
「! 主君……ありがたき幸せ。このクラウス、その任、この命に代えても……」
「父上……ありがとうございます」

 この日からクラウスは正式にアランの下に就くことになった。

   ◆◆◆

 その日の夜、アランは訓練場で魔法の訓練を行っていた。目的はもちろん、光魔法を身につけることであった。
 痛めた足を松葉杖で庇いながらアランは何度も魔法を放った。しかしそれはいつもの炎魔法であった。アランはどう訓練すれば光魔法を習得できるのか検討がついているわけではなく、がむしゃらに魔法を連射しているだけであった。
 その時、後ろから近づいてくる足音にアランは振り返った。そこには従者に付き添われながらこちらに歩いてくる父の姿があった。

「父上、お体は大丈夫なのですか!?」
「気にするな、続けろ」

 言われたアランは緊張しつつも訓練を続けた。
 カルロはその様子をしばらく眺めていたが、おもむろに口を開いた。

「アラン、お前が幼い時に私が教えたことを思い出せ。まずは自分の魔力がどういうものかを理解し、使い分けることを覚えるのだ」

 使い分ける? これにアランは気まずそうな顔をした。アランは幼少時に受けた父の教えを思い出せなかった。
 しかしカルロはそんなアランを咎めようとはせず、かつて教えたことを再び語り出した。

「今のお前の炎は安定しておらず、ムラがある。それはお前が放っている魔力が混ざり物であることを示している」
「申し訳ありません父上。混ざり物とはどういうことなのでしょうか」
「お前は複数の魔力を同時に放っているのだ。結果としてそれが炎の魔法となってはいるが、不純物がお前の炎を不安定にしている」
「どうすれば使い分けることができるようになるのですか?」
「はっきりしたことは言えぬ。魔力を使い分ける感覚は人によって違うものなのだ」

 それを聞いたアランは明らかに残念そうな表情を浮かべたが、カルロはすぐに助け舟を出した。

「しかし手が全く無いわけではない。良い訓練法がある。先祖代々伝わってきた方法だ」

「それは?」と身を乗り出して尋ねるアランに、カルロはゆっくりと口を開いた。

「放出する魔力を少なくするのだ」

 そう言ってカルロは人差し指を立て、その指先から蝋燭のように小さな炎を生み出した。

「混ざり物になっている炎魔法は、炎に不自然な揺らぎが生じる」

 直後、カルロの指先にある炎が激しく揺らめきはじめた。

「揺らぎが止まらないようであれば、魔力の放出量をさらに絞り、炎を小さくする」

 言いながらカルロの指先の炎は小さくなっていき、爪先ほどの大きさになった。

「炎が安定したら、今度は逆に少しずつ魔力の放出量を大きくしていく」

 炎は見る見るうちに大きく、真っ直ぐと上に伸びていき、天を焦がすような勢いになった。

「これが代々炎魔法の使い手を輩出してきた我が一族に伝わっている訓練法だ」

 カルロは炎を蝋燭ほどの大きさに戻し、それをアランのほうに向けた。

「まずはこれを練習してみろ」

 幼い頃にあきらめた魔法の修行を再開したアラン。そしてそれを後押しする父カルロ。
 アランのただ強くなりたいという純粋な思いと、傷だらけになっている息子を心配するカルロの親心が二人を結びつけていた。
 二人の間には久しく途絶えていた親子の感情が蘇っていた。

   ◆◆◆

 父と息子の訓練は連日続いた。しかしそうしている間にも戦局は変化していった。
 アランの耳には悪い報せばかりが届いた。まず初めに北の地が壊滅寸前であるとの情報が伝わってきた。
 北の地はかつてカルロの兄が守っていた土地である。カルロの兄の行方がわからなくなってからは、その息子クリスが代わって当主となり戦線を支えていた。しかし現在クリス達は敵に包囲され苦しい状況に立たされていた。
 北の地をほぼ制圧した敵軍は、レオン将軍とディーノが守っている南の平原へとなだれ込んだ。レオン将軍とディーノ達はしばらくこれを防ぎ止めていたが、遂には数の暴力に屈し、平原の地を敵に明け渡すことになった。
 そして戦線は大きく後退し、敵軍はカルロの城へと迫ってきていた。
 カルロの治める地は最後の砦であった。ここを抜かれれば、真後ろには我が国の首都がある。 レオン将軍とディーノ達はこの最終防衛線に陣を張り、敵を食い止めていた。

 戦局は悪くなる一方であったが、良い報せもあった。この苦境の中でもディーノは敵将を何人か討ち取り、着実に戦果を挙げていた。
 名のある魔法使いを次々と倒していくディーノの活躍に、奴隷達は沸き立っていた。特にディーノの出身地である貧民街の盛り上がりようは異常であった。
 目の前に敵が迫っているにも関わらず、貧民街の住人達に悲観的な表情を見せている者はいなかった。それどころか、ディーノの次の活躍を待ち遠しく思っているようですらあった。
 しかしこの親友の活躍に、アランが抱いていた感情は喜びではなく焦りであった。
 アランは自分が置いていかれているような感覚を抱いていた。戦場で活躍するディーノに対し、目立った功績を挙げていない自分。焦りは募る一方であった。

 ディーノの背を追うように訓練に明け暮れるアラン。二人の道は少しずつであるが、別れはじめていた。

   第六話 救出作戦 に続く
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:稲田 新太郎
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