シヴァリー 第四十四話

   ◆◆◆

  伝説との邂逅

   ◆◆◆

(近付いてくる。始まったか)

 移動を感じ取ったルイスは椅子から立ち上がった。

「どうしました?」

 テーブルの対面側に座っていたクレアがその行動の理由を尋ねる。
 ルイスは即座に答えた。
 しかしその答えは嘘であった。

「これから用事があるのですが、付き合っていただけますか?」

 そしてこの用事へのお誘いをクレアに断らせるつもりはルイスには無かった。

   ◆◆◆

「……!?」

 その移動をアランも感じ取った。

(俺を尾けてきていた連中の仲間らしきやつらが、ここに向かって来ている……!)

 一体こいつらは何なんだ。俺に何の用があるというのだ。

(いや、それはもう聞かずとも――)

 明らかなことだ。自分にとって害ある存在であることは。
 しかし今回は数が多い。
 数百人ほどいる。一つの部隊と言える数だ。
 こんなに数を揃えて何をするつもりなのか。

(まさか、こいつらは――)

 それはすぐに想像がついた。
 その想像が映像という形を完成させる直前、

「アラン様、御父上様がお呼びです。会議室にお越し下さい」

 ドアの向こうから自分を呼ぶ声が響いた。
 これにアランは、

「あ、ああ。分かった。すぐに行く」

 動揺した声を返すことしか出来なかった。

   ◆◆◆

 会議室に向かう途中、アランはクラウスと出会った。

「アラン様!」

 息を少し切らしたその様子から、心を読むまでも無かった。
 クラウスも感じ取ったのだ。不穏な連中が大勢で向かって来ていることを。
 だから、アランは「分かっている」という意味を込めた頷きをクラウスに返した。
 そして分かっているのはアランとクラウスの二人だけでは無かった。
 もう一人、察知している人間が廊下に声を響かせた。

「お二人もカルロ将軍に呼ばれたようだな。……それはさておき、何か嫌な感じがしないか?」

 声がした方に二人が振り向くと、そこにはクリスがいた。

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シヴァリー 第四十三話

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  試練の時、来たる

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「……」

 雲一つ無い快晴となった翌日、リックは箒を手に黙々と掃除していた。
 場所は教会。
 教会と名が付いているわけでは無いが、リックはこの場所の雰囲気をそのように感じたため、勝手にそう呼んでいる。
 そして、いまリックがやっている掃除も勝手に始めたことだ。頼まれてはいない。
 しかしリックはこれくらいのことはやって当たり前である、という意識を持っていた。タダ飯食らいになるのは御免だという、自尊心があった。

「感心ですね、息子よ」

 そんなリックに、母クレアが松葉杖で歩み寄りながら声をかけてきた。
 リックは母に必要以上に歩かせぬよう、自分から歩み寄りながら声を返した。

「仕事を持たぬ厄介者ですからね。これくらいのことはしないと」

 答えながら、リックはクレアの足元に視線を移した。
 ここに来るまでに鎖使いにやられた傷が、腐る前に切り落とした左足首の切断面が何度か化膿したからだ。
 しかし今はもう治まっている。色も過度に赤くなく、熱を発している様子は見られない。
 そんなリックの考えを察したのか、クレアは再び口を開いた。

「心配は無用ですよ。もう良くなりましたから」

 その言葉にリックは眉をひそめながら口を開いた。

「前もそう言いながら無茶をして、熱を出したではありませんか。せっかくルイス殿が良い部屋を用意してくださったのですから、ちゃんと休んで――「息子さんの言うとおりですよ。休んでいてもらわなくては困ります」

 割り込むように飛び込んできたその声に、リックとクレアは同時に振り返った。
 そこにいたのは、声の主はルイス。
 直後に二人の表情が少し硬くなったことから、察したルイスは口を開いた。

「ここに到着された時にも言いましたが、あなた方は客人では無い。同じ血を引く家族だと私は思っている。ですから、そのように堅苦しくならないで頂きたい」

 言いながらルイスはリックが持つ箒に手を伸ばしたが、これをリックは別の手で遮った。

「……ルイス殿、そうおっしゃっていただけるのは嬉しいのですが、どうにも落ち着かないのです。どうか、性分だと思って、このような我々の身勝手をお許し願いたい」

 こう丁寧に言われては、ルイスも引かざるを得なかった。

「わかりました。あなた方がそう望むのであれば、私からも無理を言うつもりはございません」

 そう言った後、ルイスは来た方向に視線を移しながら言葉を続けた。

「では、私は少し用事があるので出かけなければなりませんが、その間の留守番をお願い出来ますか」

 これにリックとクレアが肯定の返事を返すと、ルイスは「宜しくお願いします」と言い残して場から去っていった。
 その背中が見えなくなった後、リックが母に尋ねた。

「母上、あの御方は、ルイス殿はどうして『あのような』――」

 リックが何を言わんとしているのかを察したクレアはその言葉を遮るように口を開いた。

「妙な詮索をするものではありませんよ、リック」

 しかしクレアも気にはなっていたらしく、言葉を続けた。

「……少し『物騒』ですが、『あれ』は彼なりに『武』を求めた結果なのでしょう。体術の型は一通り修めているかもしれませんが、彼は魔法が使えないはず。しかし、それでも力を求めた結果、彼は『ああなった』のでしょう」
「……」

 あくまでも推測でしかなかったが、リックは母の言葉が正解であるように感じた。

「……ん?」

 直後、リックはふと、窓を見た。
 そこには先と変わらぬ雲一つ無い空が広がっていた。

「……?」

 しかしリックは違和感を覚えた。

 何か、大きな雲のようなものに光を遮られたような、覆われたような、そんな気がしたからだ。

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シヴァリー 第四十二話

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   魔王

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 ケビンは夢を見た。
 複数の何かが話し合っている声のようなものが聞こえる。
 ほとんどはただの雑音のよう。しかし、たまに意味のある言葉が意識に入る。感じ取れる。
 それ以外には何も無い。
 ただただ真っ暗。景色が無い。色が無い。
 そして体は動かせない。感覚も無い。
 本当に、声が聞こえるだけ。
 だからケビンには耳をすますことしか出来なかった。

「作り変えなくちゃ」
「そうだね。これからきっと大変になる」
「あいつと同じことが出来るようにならなくては」

 何をするつもりだ? それをケビンは尋ねようとしたが、出来なかった。

   ◆◆◆

 それから暫くの間、意識が消えた。
 時間の感覚が無い、夢の無い眠り。
 そして気がつけば、声はまだ続いていた。

「やっぱり熱が出た」
「それはしょうがない」
「でもこれであれが出来るようになった」
「もう大丈夫。熱は下がり始めてる」

 その後、似たようなやり取りが何度か続いたが、

「ところで、『彼女』はどうする?」

 という、何かが放った一言が、全ての雑音を止めた。

「「「……」」」

 静寂がしばらく続いた後、何かが声を上げた。

「いいことを思いついた」

 と。

 その「いいこと」が何なのかをケビンは知りたかったが、直後、『彼』の意識は再び消えた。

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シヴァリー 第一話

騎士道(シヴァリー)はそれ自身人生の詩である。
(シュレーゲル 『歴史哲学』より)

武士道(シヴァリー)はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である。
(新渡戸稲造 『武士道』より)

   ◆◆◆

 かつてある魔法使いはこう言った。
「私がまだ幼かった頃、魔法は希望の象徴だった。
 しかし今は違う。
 魔法という存在は嫉妬、差別などの暗い感情を生み、世に不幸をもたらすであろう」
 
 魔法――
 それはとても不思議な力。その力は人類に様々な恩恵をもたらした。
 時代が流れるとともに魔法への信仰、依存心は深まっていき、人類にとって無くてはならない存在となった。
 しかし神は残酷だった。
 魔法は誰にでも扱えるものではなかった。魔法を扱うには天性の素質が必要だった。
 魔法は強い力。それを扱える者は自然と社会の強者になった。
 人の欲望は果てしない。力を持つ者達はより大きな力を求めた。

古き戦い


 富、名声、権力――これらを巡り戦いは繰り返された。
 その犠牲になるのは常に弱者。魔法を扱えないものは血を流し、涙を飲むしかなかった。
 人は皆何かに価値を見出し、それを頼りに生きる。しかしこの世界は魔法の価値があまりに高くなりすぎていた。
 しかしどんな時代にも必ず終わりは来るのだ。この物語はそんな魔法使いの世の価値観を変えた者達の物語である。

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プロフィール

稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

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