ある科学者の目覚め

ある科学者のタマゴは、ある日知った。

全てのものは等価交換であると。
無から有なんて生まれないと。
そう見える時はある。でもそれはその場にたまたま、我々が見えない、見えていなかった小さなものが集まって出来ただけなのだと。
我々人類は既にあるものを組み合わせることしか出来ないと。
そして、元に戻すのはとても難しいと。

だから科学者のタマゴは思った。

では、我々の道の果てには破滅しか無いのかと。
使えるものを使い切ったらそれで終わりなのかと。
宇宙に気軽に飛び出せるようになったとしても、それは結局、一時的に使えるものが増えるだけなのではと。
なら、頑張ってもしょうがないじゃないかと。

だから科学者のタマゴは神を呪った。

昔は神を愛していた。尊敬していた。

彼には数式が芸術に見えていたからだ。
とても美しく、まるで誰かに創られたもののように感じたからだ。

その神を呪う日々はしばらく続いた。

それは科学者のタマゴにとって苦痛以外の何物でも無かった。

だから科学者のタマゴは答えを求めた。
なんでもいい、自分の心に決着をつけられる何かを。

その過程で、科学者のタマゴは善と悪について考える機会を得た。

「最も悪いもの、悪い行い」とは何かを考えた。「世界共通の悪」、「人類の敵」とは何かを。

それはすぐに思いついた。

それは、「人類文明の寿命を削る行為」であると、科学者のタマゴは思った。

自身の欲求を満たすためだけに、物を大量に消費する行為。
ニセモノなどの低品質なものを流通させる行為。
消費させるためだけに、わざと耐久性の無いものを生み出す行為。
そのような行為が揺るがぬ悪であると、科学者のタマゴは思った。

それが科学者のタマゴにとっての答えだった。

科学者のタマゴはその考え方を基本にした。

その日から全てが変わった。

節約するという行為は、以前より大きな価値を持つようになった。
頑丈なものを創るという行為も、以前より大きな価値を持つようになった。
見栄えが良いだけで質の悪い物は、その価値を失った。

そして科学者のタマゴは再び机の前に向かうようになった。

たとえ、終わる未来が変えられぬものであったとしても、やるだけやってやると。
終わるにしても、胸を張りたいと。

人類の意地と気概を神様に見せてやる、科学者のタマゴはそんなことを考えながらペンを手に取った。

その日、科学者のタマゴは身を縛っていた殻をぶち破った。
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鹿が好きな男

俺は子供の頃、鹿が好きだった。

山を走っては鹿を探し、追いかけた。当然、追いつけなかったが。

そして、大人になった今、俺は鹿に向けて弓を引いている。

矢を掴んでいた手を離す。

放たれた矢は狙い通りに飛んで行き、鹿の腹に突き刺さった。

――

俺は好きだった鹿を狩っている。

その理由は個人の生活のためだけでは無い。

鹿は俺の村をおびやかしている。

俺の村に平地は少ない。畑は山の中にある。

山には耕地に適した場所が少ない。ゆえに収穫は少ない。

その貴重な食料を、鹿は盗み食う。

それを許すことは出来ない。放っておけば、間違いなく村は滅ぶ。

――

いつからかは分からない。

だが、成長するにつれ、世の中の仕組みを知るにつれ、俺の中の価値観は変わって行った。

そして一つ、絶対のものがあることを俺は知った。

絶対たるもの、それは自然の掟だ。

何者も、どんな感情もこれの上に立つことは出来ない。

情も愛も怒りも悲しみも、全ては自然という大きな手のひらの上で生まれたものなのかもしれないと、俺は考えている。

自然は厳しい。人間はその厳しさから逃れるために、愛や情などの感情を使って子や仲間を作り、社会を生み出した。

感情は人間だけのものじゃない。他の動物達も普通に持っている。動物達だって大なり小なり社会を持っている。

そして、子供の頃、鹿を好きだった感情、それは愛なのかと問われれば、俺は「違う」と答える。
ただ、その見た目に惹かれていただけだ。

人間が作る社会は大きく、強固だ。だが、それでも自然のほうが強い。そう感じる。

だから他の生き物を愛するということは難しい。生きるということは戦いなのだから。

殺された鹿は俺を恨んでいるだろう。養っていた家族がいればなおのことだ。

だが俺はどうとも思っていない。生き残るためにやっているのだ。そこに後ろめたい感情など一切無い。

では、もし俺が逆に殺されたら、俺はどう思うだろうか。

こんな俺にも養っている家族がいる。俺がいなくなったら困るだろう。飢え死にしてしまうかもしれない。

……やっぱり、どう考えても俺は俺を殺した相手を恨むだろうな。そんな気がする。

でもそれ以上に恨むだろう相手がいる。

それはこの自然だ。

厳しすぎるんだよ、生きるってことは。くそったれだ。

もし、この世を作った神様っていうのが本当にいるなら、殴り倒してやりたいね。本当にそう思っているよ、俺は。

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あるキリギリスの決心

昔々、あるところに働きもののアリと怠け者のキリギリスがいました。

アリは厳しい冬に備えるために夏の間せっせと働き、食料を蓄えていました。
その間、キリギリスはバイオリンをひき、遊んでいただけでした。

そして冬が訪れました。
夏の間真面目に働いていたアリは、貧しくとも飢えることのない生活を送っていました。

一方、食べるものが無くなったキリギリスは今まさに飢え死にしようとしていました。

そこへ、そんなキリギリスのことを哀れに思った一匹のアリが手を差し伸べました。

キリギリスはそのアリから食料を分けてもらい、冬を乗り越えました。

そして再び夏が訪れました。

あんなことがあったにもかかわらずキリギリスは真面目に働こうとしませんでした。

ですが、一つ変わったことがありました。

嘘や言い訳が上手くなっていたのです。
言葉巧みに働き者をだまし、食料を頂戴していました。

そんな生活を続けていたある日――

キリギリスはある小さな嘘を見抜かれました。

そしてキリギリスは愛想をつかされ、以前救いの手を差し伸べてくれたアリも話に応じてくれなくなりました。

これにはさすがのキリギリスも堪えました。
だからキリギリスは考えました。

次はバレないようにもっと上手くやろう――

……

違う違う、そうじゃない。

いつから俺はこんな風に考えるようになった?

昔の――ガキだった頃の俺はこんなんじゃなかったはずだ。

小さかった頃は嘘のつき方も知らなかった。
間違ったら謝るか、泣くしかできなかった。

いつからだろう、こんな風に嘘をついたり、ごまかしたり、言い訳するのが上手くなったのは。

もうやめよう。くそったれだ。
自分を変えるんだ。少しずつ。
正しいものだけを積み重ねて、嘘偽りない強い人生を歩むんだ。

……

キリギリスは手に持っていたバイオリンを地面に叩きつけました。

(さよならだ。これまでのくそったれな自分と)

キリギリスはアリの巣へ背を向け、新天地へ向けて足を前に出しました。

おしまい

――

これはイソップ寓話「アリとキリギリス」の改変です

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稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

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