ネゴシエイター桃太郎 最終回

その後、犬はその辺をのらりくらりとぶらついた。

桃太郎の姿はどこにも見えなくなった。匂いもしない。

歩き疲れた犬はある村で足を止めた。

その村は居心地が良かった。
村人が善い人ばかりで、なにより特産品である桃ときび団子がおいしい。

そして犬はその村で一匹の雌犬と恋に落ちた。

甘く平和な時間が流れた。まさに至福であった。

そして仕事と家庭を持ち、この村に骨を埋めることが確実になったと、そんな考えが犬の頭に生まれた時、それは起きた。起きてしまった。

ある夜、仕事からの帰り道に犬は信じたくない光景を目にした。

犬「……燃えている?」

村は赤い光に包まれていた。

自然と犬の足が走り出す。

無事でいてくれ、お願いだ、と心の中で叫びながら走る。

しかしその願いに神は応えなかった。

犬「……」

犬の家は燃え盛っていた。入れないほどに。

そして愛する者の亡骸が玄関の近くにあった。

犬「……」

犬は呆然とそれを見つめた後、ふらふらと歩み寄った。

あまりのことに現実感が無い。

恐る恐る亡骸を抱きしめてようやく、犬の目から涙がこぼれた。

そして犬は天を仰ぎながら遠吠えを上げた。

その直後、

犬(!?)

何者かの接近を犬の鼻は捉えた。

が、警戒心はすぐに消えた。

知っている匂いだったからだ。

しばらくしてその者は暗闇から姿を現した。

ゴリラ「……なんだお前か」

遠吠えを発していたものが敵で無かったことを確認したゴリラは、構えていた武器を下ろした。

どこかへ戻ろうとするゴリラの背に犬が声をかける。

犬「一体何があったんですか?! ゴリラさん!」

ゴリラ「見てわかるだろう! 鬼が攻めてきたんだよ!」

犬「……」

それは犬が期待していた答えでは無かったが、犬の聞き方も悪かった。
「どうしてこんなことに」と尋ねた方が正解であった。

そして、犬はゴリラが流暢に喋っていることに疑問を抱いたが、それを尋ねる間も無く、ゴリラはどこかへ走り出した。

犬はその背を追った。

あの二人のことが頭に浮かんだからだ。

犬の予感は的中した。

ゴリラが走った先にはフェニックスと桃太郎と、そして一人の少年の姿があった。

犬は桃太郎のそばに駆け寄ったが、

犬「……」

声をかけることが出来なかった。

桃太郎は重症を負っていた。誰が見ても助からないほどの。

そして場に漂う重い静寂を破ったのはその桃太郎であった。

桃「……ひさし、ぶり、だな」

桃太郎は口から血を噴出しながら、言葉を続けた。

桃「口先しか武器の無い私に、こんなことは向いていないと、それは、わかっていたのだが……」

桃「故郷への、思いというものは、やはり大きいもの、だな。良い思い出があれば、なおさら」

桃「ここで戦っても、勝てないことは、わかっていたんだ。村人が逃げられるように、時間かせぎをするだけ、そう思っていたが、出来なかった」

桃「結局、村も、村人も、守れなかった。ただの、役立たずの能無しだな、私は」

これに少年が声を上げた。

少年「そんなことないよ。おじさんは僕を助けてくれた」

桃「……」

これに桃は何も言わなかったが、その表情は僅かにやわらいだように見えた。

桃「……」

そして、桃太郎はそのまま静かに息を引き取った。

   ◆◆◆

死者を埋葬した後、犬と二匹は少年を連れてその場から離れた。

鬼が戦線を押し上げてきたのだ。戦火から逃れるため、犬達は遠くへ逃げなければならなかった。

その過程で犬と二匹は互いのことを話し、ゴリラとフェニックスが桃太郎と同郷の友であることを犬は知った。

そしてしばらくして犬達は新天地での生活を始めた。

全てが変わった。その中でも特に犬の変化は大きかった。

まず己に厳しくなった。甘えの無い厳格な振る舞いをするようになった。

それを見て少年もそのように振舞うようになった。

二人とも分かっていたのだ。この無念を晴らすには強くならねばならないことが。
そして強い精神を身に付けることがその近道になることも。

その重く厳しい時間は淡々と流れていった。

   ◆◆◆

十年後――

たくましい男に成長したかつての少年は、懐かしい故郷を遠く見据えていた。

彼の傍にはイヌ、サル、キジの姿がある。

奪われた故郷はいまだ鬼達に占領されている。

情報力と交渉力くらいしか取り柄がなかったかつての桃太郎はこの地で奴らに敗れ、そして死んだ。

だが、彼が守り残した一人の少年が、強大な武と勇を持つ男となって帰ってきたのだ。

   ◆◆◆

桃太郎

桃から生まれた桃太郎。
犬、サル、キジの三匹をお供に鬼退治。

報酬はきび団子一個。

なぜそんなちっぽけな報酬で三匹は鬼対峙に付き合ったのか?

その真実が物語の背景にあることを残念ながら皆は知らない。

きび団子は彼らにとって絆であり、心を燃やす燃料なのだ。
奪われた故郷の名物であったそれを見つめ、思い出すことで、己が成すべきことを確かめるためのものなのだ。

本当の桃太郎、彼の武器は勇気でも武力でも無かった。
彼の武器は話術とコネ。それだけの男。

しかしそんな彼が守り残したものが、後に伝説と成ったのだ。
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

ネゴシエイター桃太郎5

桃から生まれた桃太郎。
彼が犬、サル、キジの三匹をお供に、鬼退治をした昔話はあまりに有名である。

民を苦しめていた鬼を退治したことは立派なことだ。だが、なによりもすごいのは、たったきび団子一個で三匹にそんな危険な仕事をさせたことである。

桃太郎、彼の真の武器は勇気では無かった。
彼の武器は話術とコネ。どんな難題も口先で解決する。そんな彼のことを皆は交渉人(ネゴシエイター)と呼んでいた。

   ◆◆◆

桃太郎「本当は逃げたんだろ? 正直に言っていいんだぞ?」

犬(あわわわわわわわわ)

完璧な言い訳を一瞬で看破されてしまった犬!
絶体絶命のピンチだ!

しかし犬の頭ではこの窮地を切り抜ける術は思いつかなかった。

犬「あばばばばばばばばば」

桃「……そんなに怯えなくていいぞ。何もしやしないから」

犬「え?」

桃「お前を探していたのは渡すものがあるからだ」

そう言って桃太郎はふところから封筒を取り出した。

桃「受け取れ」

犬「なんですか? これ?」

桃「退職金だ」

犬「へ?」

桃「この仕事を辞めるつもりだったんだろう? 違うのか?」

犬「え? ……ああ、はい、その通り、です」

桃「じゃあ受け取れ。遠慮する必要は無い」

犬はおずおずと厚みのあるその封筒を受け取った。

犬「……あのう」

しかし犬には聞きたいことがあった。
そしてその内容を桃は見透かしていた。

桃「自分を改造したりしないのか? と聞きたいんだろう?」

犬「は、はい」

桃「一つ真実を教えよう。今一緒に旅をしているゴリラとフェニックスはサルとキジじゃない。別人だ」

犬「どういうことです?」

桃「……あのサルとキジは鬼から送りこまれたスパイさ」

犬「スパイ?」

桃「そうだ。単純に言えば敵だ。よく考えてみろ。きびだんご一個でこんな危険な仕事を引き受けるやつがどこにいる?」

そう言って桃は「はっ」となった。そんなやつが目の前にいるからだ。

桃「……逆に聞きたいんだが、君はなぜこの仕事を引き受けたんだ? 君の素性は調べさせてもらった。ただの一般人であることはわかっている」

これに桃は「義」や「勇」などの言葉を含んだ返事を期待したが、残念ながらその希望に犬は応えなかった。

犬「……なんかかっこいいな、って思って」

これを聞いた桃は「こいつ本当にアホなんだな」と思ったがそれは口に出さないでおくことにした。

桃「そ、そうか」

場に奇妙な静寂が漂い始める。

その微妙な空気を犬が破った。

犬「……桃さんはなんで僕達を雇ったんですか? スパイである可能性が高いことはわかっていたのに」

桃「……私はただのおとりなのさ。正確には『だった』だが」

犬「おとり?」

桃「そうだ。鬼の注意を引くためのただのおとりだ。裏では軍隊が攻撃の準備を進めている」

なんか壮大な話になってきたな、と犬は思った。

桃「そして鬼は既にそのことに気付いている。だから私は隠す必要無しと判断してサルとキジを軍に引渡した」

桃「これからの私の仕事はただの荒事だ。先行している部隊と合流して鬼に挑む、それだけだ」

桃「……これで話は終わりだ。じゃあな。気をつけて帰れよ」

それだけ言って、桃は手を振った後、犬の前から去った。

犬「……」

残された犬はこれからどうしようかな、と考えた。

犬「……退職金もらっちゃったし、ちょっとこの辺を観光でもしようかな!」

これは嘘であった。
本当はこんな何もないところを観光したいなどと思っていない。
ただ、桃太郎のことが気になるだけなのだ。

次回に続く

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

ネゴシエイター桃太郎4

桃から生まれた桃太郎。
彼が犬、サル、キジの三匹をお供に、鬼退治をした昔話はあまりに有名である。

民を苦しめていた鬼を退治したことは立派なことだ。だが、なによりもすごいのは、たったきび団子一個で三匹にそんな危険な仕事をさせたことである。

桃太郎、彼の真の武器は勇気では無かった。
彼の武器は話術とコネ。どんな難題も口先で解決する。そんな彼のことを皆は交渉人(ネゴシエイター)と呼んでいた。

   ◆◆◆

キジが大変なことになった次の日――

犬「……」

僕は逃げ出していた。ていうかそれが普通だと思う。あんなヤバい職場、長居出来るわけがない。

犬(きびだんご一個であんなん、ありえへんわ……)

哀れキジ&サル。君達のことは忘れない。たぶん。

犬「……」

さて、これからどうするか。とりあえず家に帰るか。

犬(でも……その前に何か食べたいな。お腹空いた)

今日は朝から何も食べてない。きびだんごはもらったその日に食べちゃったし。

犬(……一度戻って、夕食をいただいてから、また逃げよう)

恐怖よりも食欲が勝ってしまう悲しい生き物であった。

犬(メシはちゃんと出るんだよな。給料は出ないけど)

犬(でも、やっぱり怒ってるだろうな……戻ったらその場で即改造、とかあるかもしれん)

なんか言い訳を考えておこう。

犬(うーん……なんて言おう)

道に迷ってました、すいませーん、っていう感じでしれっと戻ればいいか。

犬(よし、完璧だ!)

一分の隙も無い言い訳だ!

そんなことを思った直後――

桃太郎「おい」

犬「はうわ!?」

突如背後から飛んで来た雇い主の声に、犬は素っ頓狂な声を上げながら飛び上がった。

犬「も、もももももも、桃太郎さん?!」

桃「驚きすぎだろう、少し落ち着け」

犬「ど、どうしてここに?!」

桃「それはこっちが聞きたいな」

犬「いや……僕は、その……ほら、アレ……あの……そう! 散歩ですよ! 散歩!」

桃「散歩? 朝から姿をくらましてこんな時間まで散歩とは、よほど好きなんだな」

犬「あー、いや、それは……ちょっと道に迷っちゃいまして……」

桃「迷った? それは無いだろう。ここは逃げた場所からそう遠くない。この距離なら鼻が利くはずだ」

犬(しまったー! そういえば僕は犬だったー!)

このよく利く鼻が恨めしい!

桃「本当は逃げたんだろ? 正直に言っていいんだぞ?」

犬(あわわわわわわわわ)

完璧な言い訳を一瞬で看破されてしまった犬!
絶体絶命のピンチだ!
どうする犬! どうなる犬! やっぱり改造されてしまうのか?!

次回に続く

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

ネゴシエイター桃太郎3

桃から生まれた桃太郎。
彼が犬、サル、キジの三匹をお供に、鬼退治をした昔話はあまりに有名である。

民を苦しめていた鬼を退治したことは立派なことだ。だが、なによりもすごいのは、たったきび団子一個で三匹にそんな危険な仕事をさせたことである。

桃太郎、彼の真の武器は勇気では無かった。
彼の武器は話術とコネ。どんな難題も口先で解決する。そんな彼のことを皆は交渉人(ネゴシエイター)と呼んでいた。

続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

アクセスカウンター
(14/01/05設置 ユニーク数)
カテゴリ
最新記事
フリーエリア
17/02/27