シヴァリー 第四十二話

   ◆◆◆

   魔王

   ◆◆◆

 ケビンは夢を見た。
 複数の何かが話し合っている声のようなものが聞こえる。
 ほとんどはただの雑音のよう。しかし、たまに意味のある言葉が意識に入る。感じ取れる。
 それ以外には何も無い。
 ただただ真っ暗。景色が無い。色が無い。
 そして体は動かせない。感覚も無い。
 本当に、声が聞こえるだけ。
 だからケビンには耳をすますことしか出来なかった。

「作り変えなくちゃ」
「そうだね。これからきっと大変になる」
「あいつと同じことが出来るようにならなくては」

 何をするつもりだ? それをケビンは尋ねようとしたが、出来なかった。

   ◆◆◆

 それから暫くの間、意識が消えた。
 時間の感覚が無い、夢の無い眠り。
 そして気がつけば、声はまだ続いていた。

「やっぱり熱が出た」
「それはしょうがない」
「でもこれであれが出来るようになった」
「もう大丈夫。熱は下がり始めてる」

 その後、似たようなやり取りが何度か続いたが、

「ところで、『彼女』はどうする?」

 という、何かが放った一言が、全ての雑音を止めた。

「「「……」」」

 静寂がしばらく続いた後、何かが声を上げた。

「いいことを思いついた」

 と。

 その「いいこと」が何なのかをケビンは知りたかったが、直後、『彼』の意識は再び消えた。

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シヴァリー 第四十一話

   ◆◆◆

  三つ葉葵の男

   ◆◆◆

 閃光に白く染まるケビンの視界。
 死んだと思った。
 痛みを全く感じなかったのが少し不思議だった。即死にしたって、多少の痛みはあるはずだ。
 しかし今のケビンにはどうでもよかった。むしろ痛みが無いことに安堵した。
 だからケビンの心は、このあとどうなるのだろう、死後の世界とはどんなところなのだろう、などという期待感のようなもので埋まっていた。
 のだが、

「……?」

 ケビンの目がその機能を取り戻した瞬間、眼前に広がったのは先とあまり変わらぬ光景であった。
 しかしその場面には一つ大きく変わったところがあった。
 目の前にいるのがシャロンではないこと。
 あるのは見知らぬ男の背中。
 大きく広い。だから男だろうとケビンは思った。
 そしてその男が身にまとっている装備は見た事が無いものであった。
 鎧であることは一目瞭然であった。
 弓兵が身に着ける、機動力を重視した軽装鎧のように見える。
 が、その鎧が放つ雰囲気は重厚。細部にわたって作りこまれており、決して雑兵などが身に纏えるものでは無いことが一目で分かる。隙間があるようで無い。装甲の節目は厚みのある何かで埋まっている。
 ケビンの目はその作りの繊細さに奪われたが、

「……」

 間も無く、その背中が音も無く一歩遠ざかった。
 本当に、完全な無音。
 これだけの甲冑を身に纏っているにもかかわらず。
 装甲が、金属部分同士がまったくぶつかりあっていない。
 ケビンはすぐに察した。
 これはそのように作られているのだ。これは隠密行動を前提とした鎧だと。
 色が黒で統一されていることからもそう思えた。

「……」

 そして男は、無音のまま構えた。
 男が腰を下げ、腰にある獲物に手を添える。
 その瞬間、

「!」

 ケビンの目はその獲物に釘付けになった。
 それはクラウスと同じ剣。
「三つ葉葵」の紋が柄の底に刻まれた刀だ。

   ◆◆◆

「あの……っ!」

 屋根上からそれを見た女は、思わず口を開いた。
 男と同じ鎧を身に纏うその女は、「あの馬鹿」と声を出しそうになった。
 途中で言葉を飲み込んだのは、自分はまだ隠密行動を続けるべきかもしれないという意識があったからだ。
 予定では戦いが終わった後に消耗したシャロンを叩く筋書きだった。
 しかしここからは共闘するしかない。こうなった以上、そうしたほうが利が大きい。

(やむを得ない、か)

 女はそうするしかない、などと自分に言い聞かせた。
 心の奥底から「これはこれで悪くない」などという言葉が湧き上がってきそうだったからだ。

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シヴァリー 第四十話

第六章表紙

   ◆◆◆

  稲光る舞台

   ◆◆◆

 様々な事があったあの戦いから一週間後の朝、

「……」

 リーザは静かに目を覚ました。
 場所は分からない。知らない天井だ。ベッドの上ということだけは分かる。
 ここはどこ? あの後どうなった? それを確認するため、上半身を起こそうとした瞬間、

「ここは私が用意した部屋だ。戦いの後、傷だらけだったお前をここに運ばせたのだ」

 と、男の声が耳に入った。
 痛みをこらえながら体を起こしつつ、声がした方へ振り向くと、そこには本を片手に椅子に座っているサイラスの姿があった。
 サイラスは本を机の上に置きながら口を開いた。

「そろそろ目覚める頃だと思ってな」

 サイラスは嘘をついた。「思った」のではなく、「察した」。
 リーザにはそれが分かった。いつの間にか心が繋がれていたからだ。
 その事実から、リーザはサイラスもアランのような能力を持っていることを理解した。そしてそれが強力であることも。心の奥底まで見透かされているようだ。この男ならば剣に頼らずとも、本能の考えを読めるのではないだろうか。
 そして逆に、こちらもサイラスが考えていることが分かる。わざとそうしているのだろう。嘘を隠すつもりは無いようだ。もっと言えば、隠し事無く腹を割って話したいということか。
 そこまでリーザが理解したと同時に、サイラスが再び口を開いた。

「目覚めはどうだ? どんな気分だ?」

 サイラスがいう「目覚め」とは、「生まれ変わり」のことであった。
 サイラスはリーザの理性と本能が作り直されたことを知っていた。感じ取っていた。
 そしてどうやらサイラスはそのことについて話を聞きたいようであった。

「……」

 しかしこの問いにリーザは困った。
 自分でもまだよくわからないからだ。
 それに記憶が曖昧だ。はっきりと思い出せない。
 何故だろうとリーザが考え込むと、それは以前の自分の記憶がまだ馴染んでいないからだろう、と思った。
 なぜだかそれが正解のように感じられ、そしてその言葉が本能から伝えられたものであることを理解するのにさほど時間は要さなかった。
 そしてリーザはそれを言葉で説明しようとしたが、

「そうか、それならばまた後で話を聞かせてもらうことにしよう」

 今のサイラスに口での説明は不要であったらしく、そう言い残して部屋から出ていった。

   ◆◆◆

「……くっ、はっはっは」

 リーザの部屋を出てからしばらくして、サイラスは突然噴出した。
 リーザを上手く騙すことが出来たからだ。
 実は、サイラスに腹を割って話し合うつもりなど微塵も無かった。
 しかしリーザは騙された。そう思った。感じた。
 どうしてそんなことが出来たのか。
 サイラスは笑いを抑えながら、その答えをつぶやいた。

「……『思い込む』、ということがこれほど便利とはな」

 サイラスは腹を割って話していると自身を思い込ませていた。一時的な軽い自己洗脳である。
 実際は腹など割られていない。隠し事だらけだ。
 腹を割って話す、その感覚だけをリーザに放ったのだ。
 嘘の感覚を発しないことも重要だ。詐欺師の技の一種である。
 サイラスはたった一週間で感知能力者に対して隠し事をするのに必要な基本技術を身に着けていた。
 何故か。
 良い師がいたからだ。

   ◆◆◆

 その後、サイラスは人気の少ない広場に足を伸ばした。
 そこには二人の男がサイラスを待っていた。
 二人を待たせた形であるが、サイラスは悪びれた様子無く声をかけた。

「じゃあ今日も頼むぞ、フレディ、ケビン」

 師とはフレディのことであった。
 サイラスはフレディが感知能力の素質を有していることをすぐに見抜き、共感を使って同じ道に引き込んだ。
 そして予想通り、フレディの感知能力は中々強力であった。
 フレディも同じく、自覚無しにその能力を使っていたのだろう。だから隠密行動に長けていたのだ。
 さらに、フレディは騙し技、詐術に長けていた。
 それらは感知能力者に対しても有効であった。ケビンを練習相手にして試したからだ。
 共感を使えば習得にはそれほど時間はかからなかった。感覚的な技術の習得に共感は便利な代物であった。
 サイラスはこれとは別に、兵士達との訓練も行っている。
 しかしその中にラルフは含まれていない。
 サイラスは警戒していた。ラルフに余計なことが吹き込まれないかどうかを。妙な知恵をつけてしまわないかどうかを。ラルフには便利な駒のままでいてほしいからだ。
 ゆえに、サイラスはリーザに興味を持っていた。
 あの時、彼女の身に何が起こったのかは分からなかったが、考えが全く読めなくなったとケビンから聞いたからだ。
 その技術に、神秘にサイラスは惹かれていた。
 今の詐術は完璧とは言い難い。優秀な能力者相手だと見破られる可能性がある。
 そして完璧な詐術を身に付ければ、よりラルフを扱いやすくなる。

(リーザには協力してもらわねばならないな……)

 どんな手を使ってでも、という言葉がサイラスの奥底に漂っていた。

 サイラスは気付いていない。
 既に自分の足が泥沼にはまっていることを。
 サイラスが進もうとしているのは束縛と支配の道。
 詐術や脅迫を使わねば歩めぬ不安定で危うい道。
 サイラスは後に思い知らされることになる。
 隠し事が無い者の強さを。「威風堂々」という言葉の重みを身を持って知ることになるのだ。
 

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シヴァリー 第三十九話

   ◆◆◆

  二刀一心 三位一体

   ◆◆◆

 同時刻――
 アランとクラウスが武神の号令を発動させた戦場からはるか北西の位置、大きな海をまたいだところに白い大陸が存在する。
 大地の多くが万年雪に覆われている極寒の地であるが、この大陸には強靭な国家が存在していた。
 その象徴たるものが王が住まう城。
 厳しすぎるこの白い大自然の中では不釣合いと思えるほどに巨大。
 それを見たある者はこう言った。「山と城がくっついている」と。
 それは正解であった。その城は山をくりぬいて作られていた。洞窟の暖かさを利用したい、たったそれだけの理由で残酷とも言える工事は実行された。当時の王は、それを行使できるほどの権力を、力を備えていた。
 そしてその力は今だ衰えていない。むしろ増している。
 現在の王はある理由からこの城をあまり利用しないが、今日は珍しく城主の姿があった。

「……ふう」

 広く、高く、そして長い廊下を歩きながら、王はため息をついた。
 王はある仕事のために城に戻ってきていた。
 王はその仕事が好きでは無かった。
 そしてこの城も好きでは無かった。広すぎるからだ。王はもう若くない。

「まったく、玉座に着くまでに一苦労だな」

 歩きながら王は堂々と不満を漏らした。
 理由は、喋らずとも皆知っているから、または、「心を読まれるから」だ。
 気を紛らわそうとしてくれているのか、廊下の脇に控えている守衛達が深々と頭を下げてくれたが、何の気休めにもならない。

「……ふう」

 今日何度目かになるため息。
 しかしそのため息はそれまでのものとは違い、幾分か落ち着いた気配を持っていた。
 理由は単純。やっと着いたからだ。

「皇帝陛下の御入室である! 全員控え!」

 独特の言い回しと共に、重そうな扉が開き始める。
 門番の言葉の通り、王は最近になって皇帝を名乗り始めた。
 しかしその呼び名は定着していない。皇帝の冠をかぶって一年ほど経つが、いまだにである。
 だが王自身それを気にしていない。
 もっとふさわしい別の呼び名があるからだ。

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プロフィール

稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

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