末世の拳士 第十一話

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  中央へ

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 中央へ向けられたレオのつま先であったが、その歩みはとても遅かった。
 やはり迷いがあった。ロイとルーカスのことが気になってしょうがなかった。
 数日歩いた後、レオはそのつま先を別の方へ向け、ロイとルーカスの姿を探し始めた。今のレオにとって、中央に向かう決心とロイとルーカスの存在は等価であった。
 しかし見つからず、レオの足はすぐに止まった。空腹のせいだ。
 レオは腹を押さえながらゆっくりと足を進めたが、その空腹感が草の根では押さえきれなくなった頃、ロイとルーカスの事は遂にレオの頭の中から消えた。
 レオは適当な村に入り、適当な仕事に就いた。
 そして小遣い程度の金を稼ぎ、腹が満たされると、レオの意識に再びロイとルーカスと中央のことが蘇ってきた。
 そしてレオは再び足を動かし始めた。
 しかしそのつま先が目指す先はロイとルーカスでも、中央でも無かった。
 レオは故郷に戻って来た。どうなったのかこの目で確認したかったからだ。

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末世の拳士 第一話

 かつてある賢者はこう言った。
「どんな崇高な人間であっても自然の摂理を変えることはできない。それは絶対かつ不変の規則なのだ」

 食わなければ生きていけない、弱ければ死ぬ、それは自然の摂理である。
 そして生き残るために振るわれる最も単純かつ原始的な力、それが暴力である。
 暴力は多様である。様々なものが暴力的側面を持つ。自分が生き残るために、有利になるために相手に理不尽を強いること、それが暴力なのだ。
 そんな暴力の中で特に想像しやすく象徴的なもの、それは腕力に代表される物理的な力を持つものである。
 そして、これから語る世界にはそういうものがもう一つある。それは魔法である。
 魔法、その力は圧倒的であった。その強さは腕力をはるかに凌駕していた。
 多くの人間がその強さに惹かれ溺れていった。魔法力が強い者が世を支配する、それが当たり前の世界であった。
 そして人はさらなる「力」を求めた。もっと強く、そんな願いから人は「技」を生んだ。
 人を殺生する技術、それはただ残酷である。しかしある時ひとりの人間がそれを正しき事に使い、それを「武」と呼ぶようになった。
「武」をもって世を正す、それは美しかった。しかし悲しきかな、「武」が最も輝く時代、それは乱世であった。

 これから語る物語はそんな「武の道」を歩んだ者の物語である。

末世の拳士 表紙

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  貧困と対立

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 ある街道に荷車の行列があった。
 その荷車のほとんどは人間が引いており、行列の先頭を行く数台の大きな荷車だけに馬が使われていた。
 荷車で運ばれているものは食料であった。野菜、果実、袋詰めの小麦などが荷車一杯に積まれていた。

「ああ、腹減ったなあ」

 そんな中、ある荷車を引く二人組みの男の一方がそんな独り言を吐いた。

「荷物に手を出すなよ」

 同じ荷車を引いている相方はそう言って釘を刺した。

「なんだよ、まだ何も言ってねえだろ」
「お前の目がそう言ってんだよ」

 二人のそんな意味の無いやり取りが終わった瞬間、場に怒声が響き渡った。

「賊だ!」

 声を発した男が指差す方向に目を移すと、そこにはこちらに向かってくる覆面をした連中の姿があった。

「荷車を守れ!」

 鎧を着た者達が叫びながら賊に向かって一斉に駆け出す。それから僅かに遅れて荷車の行列も走り始めた。

「ああくそ! ただでさえ腹が減って力が出ねえってのに!」
「黙って荷車を引け!」

 先の二人組みはそんなことを言い合いながら必死で荷車を引いた。

「ああぁ、賊がこっちに来てる! 駄目だぁ、このままじゃ追いつかれちまう!」

 腹が減ったことを主張していた男は、後ろをちらちらと見ながらそう叫んだ。
 そして直後、男の目の前、鼻先を「光弾」がかすめていった。
 賊が放った「魔法」であった。もし今のが直撃していたら、自分の頭は胴体とさよならをしていたであろう。

「うわ、危ねえ! 用心棒の奴等、ちゃんと守れよ!」

 冷や汗をかいた男は、賊と戦っている兵士達に文句をぶつけた。

「黙ってろって言ったろ! 前だけ見てろ!」

 そしてそんな頼りない相方にイラついたもう一方の男は、吐き捨てるようにそう言った。

 逃げる荷車から発せられるけたたましい車輪の音、それを追う賊と、迎え撃つ用心棒達の怒声、静かだった街道は突如喧騒に包まれたのであった。

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末世の拳士 第二話

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  魔法使い

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 数ヵ月後――
 世は冬から春に移っていた。
 そして、変化は季節だけでは無く、ロイとレオにも訪れていた。

 暖かな日差しが差し込む秘密基地に、ロイとレオの姿はあった。
 二人は向かい合い、身構えていた。
 その構えは、以前スコットが喧嘩の時に見せたものであった。

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末世の拳士 第三話

最後のぬくもり 表紙

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  最後のぬくもり

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 そして春の空気が去り、じめじめとした梅雨の風が吹き始めた頃。
 あの日から二ヶ月。骨折が完治したロイは、久しぶりに秘密基地へとやってきた。

「おお、ロイ! 久しぶりじゃねえか! 胸の怪我はもう良くなったのか?」

 明るいスコットの声がロイを出迎える。ロイは「ああ」と答えながら、自身の胸を軽く叩き、治ったことを強調した。
 スコットの隣にいたアレックスはロイに対し何も言わなかったが、その顔に浮かんだ薄い笑みが、そのまま挨拶となった。
 そして、ざっと秘密基地を見回したロイは、レオがいないことに気が付いた。

「レオは? 今日は来てないのか?」

 スコットがこの質問に答えた。

「今日どころか、レオはしばらくここに来てないぞ。お前が寝込んでから一度も顔を見てない」

 これにロイは「そうなのか」と相槌を打った後、少し考えてから口を開いた。

「……じゃあ俺、ちょっとレオの家まで様子を見に行ってくるよ」

 それはいい考えだ、そう思ったスコットは口を開いた。

「ああ、そうしたほうがいい。……でも、気を付けろよ」

 何に気を付けるのか、言われずとも分かっていたロイはスコットに頷きを返し、秘密基地を後にした。

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稲田 新太郎

Author:稲田 新太郎
音楽好きな物書き。ゲームも好き

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